青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
(俺にもそうなれる相手がいたらいいけどな。あいつは別の人を見ているし……いやいやいや何を意識しているんだよ!?
そ、そりゃ意識はしているけど、一時の感情でしかないんだから。うん、そうだ。なにより好きを認めたら、その時点で俺、失恋だろ。失友に次いで失恋、乙過ぎるだろ! ……あ)
身悶えていた俺は一変、瞠目した。次いで、微苦笑を零す。
おもむろに金網フェンスから移動。
愛チャリをとめている、木材が積まれた場所に歩み寄った。
そこは俺等がいたところからは死角になっている。
距離はそんなにないけど、丁度死角になるから、木材の上に腰掛けていてもそうは気付かない。相手が動かない限り、俺等の目には映らない。
「色々大変だよな。リーダーってのもさ。チームのことを考えなきゃいけないし、協定のことも、敵のことも考えなきゃいけない。俺だったら願い下げだよ、リーダーなんて」
俺は木材の上に腰掛けて一服している舎兄の隣に腰を下ろした。
珍しく煙草をふかしているヨウは、流し目で俺を見た後、苦々しく笑う。
弥生と一緒で、一部始終こっそりと俺達の会話を聞いていたらしい。
聞いちまったのは偶然なんだろうな。
ヨウのことだから、一服しようと此処に腰を掛け……俺等の会話が耳に入ってきて、聞いちまったってところだろう。
「つれぇな。くそ。リーダーやめてぇ」
ヨウは弱音を吐いた。
皆の前じゃ絶対に言わない、小さな弱音だった。
「一緒に背負ってやるって」
俺は舎兄の背中を軽く叩いた。
それが舎兄弟ってものだろうし、舎兄弟だけの特権でもあるじゃないか。
俺は舎兄の背中を預かっているんだしな。
ヨウの背負う責任を俺も背負ってやるさ。舎弟として。
「俺以外にも頼もしいメンバーがいる。ハジメだってそうだろ?」
「ああ。喧嘩だけじゃどうにもできねぇ時だってあるしな。
あいつは俺よか十二分に洞察力がある――俺個人の意見だが、喧嘩で強弱は決められない。手腕がないばかりの不良が集っている。
だから弱小チーム。そんなんじゃ決められないと思っている」
あくまで一個人の意見だけどな。
含みあるヨウの台詞に、俺は一呼吸置いて返答。「皆、ヨウの出す決断は分かっていると思うよ」
「ヨウの決断が正か誤か、皆、分からないと思う。でもチームのために出した決断なら、皆、納得すると思う。誰も不満なんて出さないって。協定の答え、もう出しているんだろ? 自信を持てよ」
「――俺の迷いを吹っ切らせてくれるのはいつもテメェだな。ケイ」
何を今更。
当たり前のことを当たり前のように言っているだけなのに。
「こんなんでも舎弟だぜ、兄貴」
「そうだ。テメェは俺の舎弟だ。ナリも手腕も関係ねぇ。こんなんもクソもあるか」
ふーっと紫煙を吐いたヨウは、一日二日考えて結論を出すと返した。
一応、時間を置いて考えを見直さないと誤りがあるかもしれないから。
でも、もうヨウの出す結論は分かっていた。
俺はヨウに一笑し、
「煙草でも吸ってみようかな」
冗談を交えて話題をかえる。
「そしたら不良チームとしてもっと馴染む気がしないか? ……ヨウ。冗談だぞ。何、その差し出す煙草。ライター。俺は別にっ、アアアアッ! 煙草に火ィ点けちまうし!」
「何事も経験だ。ほら、ケイ」
火の点いた煙草を差し出されて、俺はおずおず受け取る。
まあ、ドラッグを吸うわけじゃないんだしな。そこまでビクつかなくてもいいと思うけど、ああでも、煙草を吸う……ねぇ。
地味っ子ちゃんが煙草を吸っちゃうって。
こんなことなら、冗談でも煙草を吸ってみようかな、なんて言うんじゃなかった。反省だぜ畜生。
まあ健太が吸えていたくらいだしな。俺でも吸えるんじゃね? あいつが吸えてて俺が吸えない。おかしいだろ。うん。
ということで田山圭太、初の試み。初の不良試み。圭太、いっきまーす!
………うん、煙がね………うん、喉にね………うん、纏わりついてね……うん、ゲホンゴホンのコンチクショウ!
この後、俺がどんな目に遭ったのかは伏せておくけれど、二度と煙草を吸わないと決意したのは確かだった。
ちなみに俺の様子に始終、ヨウが大爆笑していたことは余談としておく。健太の畜生、煙草を吸えるオトナになっちまいやがって。
お前なんて一生ジミニャーノ称号剥奪だからな!
ちょっとだけ悔しい思いをしたのも余談としておく。まる。