青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




「お前は……チームで一番機転が利く。いてくれないと……困る」



欠伸を噛み締めながら、そうハジメに言うのはシズ。


「脳みそ使わないしな……うちのリーダー」


その分、頭の回転が速いメンバーが必要なのだと意見。

でなければ手を焼くのは自分だとシズは遠目で語る。


「うるせぇな」


最近は努力しているだろうが、舌を鳴らすヨウに対し、まだ不安だと遠目の遠目になるシズ。


言われてやんの、ワタルさんがゲラゲラ腹を抱えて笑う。

それにまた舌を鳴らしながら、ヨウは振り返って、ハジメの肩に手を置いた。


「頭を使う分には信用されてねぇ俺だ。欠けている分はテメェが補ってくれ」


代わりに喧嘩は俺に任せとけって。


はにかむヨウに目を瞠るハジメだったけど、小さく表情を崩して「敵わないな」照れ臭そうに言葉を返す。


傍で見ていた俺は自分のことのように嬉しくなった。


だってハジメ、自然に笑ってくれているから。


なあ、ハジメ、卑屈にならなくてもいいんだぞ。


お前は自分のことを過小評価する癖があるけど、ハジメが思う以上にヨウ達に、チームに、必要されている存在なんだから。


家庭環境を聞く限り、ハジメは勉強に雁字搦め、勉強一色の窮屈な世界で生きてきたんだろうから、その分頭が良い。


だから余計な事まで気を回して考えちまうんだろ?

考えなくてもいいことまで考えちまうんだろ?


でもハジメが思うほど、小さい存在じゃないよお前って。

ヨウ達だってお前が自分を卑下していると、悲しい思いするよ。



さて、と。 



どうやって浅倉さんチームのいるビリヤード場に足を踏み入れるか。


やっぱり、ここは三回ノックをして「失礼します」と呼び掛けするのが一番だよな。


礼儀だよな。親しき仲にも礼儀あり、不良相手にも礼儀あり、だろう。


どんなに相手が素行の悪い不良さんだとしても、まずはご挨拶するってのが「ワタルがよ~ばれてじゃじゃじゃじゃ~ん!」



………礼儀……いずこ?



「みんなお待たせ。アイドルのワタルちゃんが遊びに来たっぽ!」



嗚呼……不良のテリトリーに、ワタルさんってばもう……。


俺は額に手を当てた。


今まさにヨウがドアノブに手を掛けようとした瞬間、ワタルさんが先に役目を取って勢いよく扉を開けた。ウザ口調を付けてな!


おかげで中にいた奴等の白けた眼といったら……しかもやっぱ皆不良さんだし……髪の色がカラフルだし……。


「おいマジかよ。ワタル、何してくれてるんだよ」

「……引かれたな」


「うっわぁ……早速帰りたくなったんだけど。僕」


ヨウやシズ、ハジメも勘弁してくれと顔を顰めている。

嗚呼、三人とも俺と同じ思いなのね。

付き合いの長い不良さんでも、ワタルさんのウザさについていけない時、あるのね。良かった、俺だけじゃなかったんだ。一安心。


「トゥース!」


胸を張って右手の人さし指を挙げて皆様に輝かしいウィンクするワタルさん。


「空気を……読め!」


シズが容赦なく肘鉄砲したのはその直後。


よってワタルさんは静かになったけど、シラッとした空気は拭えずにいる。


ないってこの空気。

初対面に好印象を持たれるには、第一印象が大事だって知らないのか? ワタルさん。


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