青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「頭にタコウインナーが乗っていただろ? あれ、お似合いだったし髪の色的にもあのタコウインナーに似てた。だから、タコ沢」
「あーなるほど。面白いネーム付けるなぁ」
「だろ? こいつにピッタリだ」
「誰のせいでタコ沢になったと思ってやがる!」
吼えるタコ沢が俺を指差す。
十中八九、俺のせいのですね。すみません。
けど、意外と似合っていますよ。タコ沢元気って。
ヨウが「こいつタコ沢だからな」と言うから、俺は何の躊躇いも無く頷いてしまった。
悔しそうにタコ沢が握り拳を作っている。
ヨウはニヤリと笑ってタコ沢の肩に手を置いた。
「悔しかったら、俺に喧嘩で勝てよ。タコ沢くん」
「ッ~~~!」
「ま、今のところ。百回やっても俺に負けるだろうけどな」
「クッソーッ!」
「あと、パシリくんなんだから俺の事は“さん付け”だぜ? そりゃそうだよな。この俺に喧嘩売ってきた身の程知らずなんだし、尚且つ負けたんだもんな」
意地の悪い笑みを浮かべているヨウに、俺はさっき感じた“尊敬”とか“感動”はただの勘違いなんじゃないか? と思ってしまった。
というか、タコ沢に喧嘩売られて、ヨウは頭にきたんじゃないか? 自分に喧嘩売るなんてフザケるな! みたいな。
前回、前々回のこともあるし、今回タコ沢をメッタメタにしてやろうって思ったんじゃねぇかな。
しかも今回はそれだけじゃ済まさねぇって、自分のパシリに……やっぱ、俺の分の仕返しはついでのまたついでじゃないか! 尊敬とか感動って思った気持ち撤回!
「ちなみに、舎弟のケイをダシにして俺を倒すなんざ汚い考えは止せよ? そんなの面白くねぇから」
「俺は汚い手を使うつもりはねぇ。堂々真っ向からテメェに勝ってやる! そして舎弟にもな!」
「ゲッ、俺も入るのかよ!」
「テメェのせいでタコ沢になったんだ! いつかこの雪辱を晴らす!」
吼えるタコ沢は俺達を交互に指差し「覚えとけー!」って、吼えながら去って行った。
何だかんだで恨みを買ってしまったぞ。そしてつくづく煩いな。タコ沢って。
俺の隣でヨウが意地悪い笑みを浮かべながら、「俺に勝てるかよ」って自慢げ且つ盛大な独り言。その自信、俺に分けて欲しいぐらいだ。
「そういえば、ワタルさんは? 一緒にコンビニへ行ったんだろ? 昼休み、姿を現さなかったけど」
「ワタルはコンビニ先で喧嘩売られたから買っていた。俺は面倒だったから戻って来たけどな。出席日数、稼がねぇと後々面倒だしな」
「喧嘩売られッ」
やっぱり俺は厄介な人達と一緒にいるんだ。どうしよう。舐められないように明日からキンパにしてみるか?
……いやいやいや、残念ながらそんな度胸は無いぞ! 心の中で慌てふためいていた俺は、ふとあることに気付く。
「なあ、何で俺を待っていたんだ?」
「そりゃ一緒に帰るため。チャリ置き場行こうぜ」
こいつ、まさかのまさかだとは思うけど俺のチャリに乗るつもりじゃ。
今の時代、ニケツは罰せられること知っているのか。
この前は特別だったんぜ!
とかいっても、結局俺はヨウと一緒にチャリ置き場に行く羽目になる。
どうせ俺に断る度胸なんてないよ。まったく無いよ。
案の定、チャリを取りに来た俺は後ろにヨウを乗せる羽目になる。
当たり前のように俺の後ろに乗ってくるヨウが憎たらしい! お前乗せてペダル漕ぐって、やたらめったらキツイんだぞ! お前重いし!
そう清々しく言えたらどんなにイイだろうなぁ。
ヨウがしっかりと俺の肩を掴んでくることを確かめて、俺はペダルを踏んでチャリを漕ぎ始めた。
下校中の生徒と擦れ違う中、俺達は学校から出る。