青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
浅倉さんが俺等に顧みて、質疑応答の時間を設けた。
なるほど既に『エリア戦争』は始まっているわけか。
俺は頭の中で商店街の地形とそれぞれの不良チームの配置を想像する。
東西南北をダイヤの形に割り当てると、北が浅倉さん。南が潰したい榊原。東に都丸。西に刈谷。
半分くらいは榊原達に陣地を奪われているらしいけど、幸いなことに浅倉さんチームは北。
東西の陣地を取っている二チームが、ある意味バリケード的な役割をしてくれているんだな。
つまり榊原チームが浅倉さん達を潰すには、東西の陣地に腰を据えている二チームの目を避けては通れない。
片方に気付かれないよう動いても、片方に気付かれることだろう。商店街の敷地面積はわりとあるけど、あくまで“わりと”だ。
両チームの目を盗んで行動できるほど、大きい敷地とも言えない。
向こうチームと正反対の場所に陣地を取ったことが幸いしている。
反面、俺達が攻め込む時はバリケードが厄介だ。
“障害物”になるのは確かだし、二チームの目を避けて通れない。向こうチームと同じ条件が突きつけられる。
俺の知る限り、『廃墟の住処』は単に店同士が肩を並ばせているわけじゃない。
等間隔に店は並んでいるけれど、全部が全部店同士がくっ付いたように並んでいるわけじゃく、ある所でぽっかりと隙間が顔を出す。
隙間イコール抜け道になるわけなんだけど、商店街には幾つか抜け道が存在する。
攻め込むなら抜け道を使うのが有効的だと思う。
「んー、俺的には正面突破してぇところだよな。まどろっこしいのは嫌いだ」
真顔でお馬鹿発言をするのは我等がリーダー。
おいおいおい、大事な集会でなんて馬鹿な発言を……それができたら苦労しないだろ!
それこそ集会なんてまどろっこしいモノ開かないで、さっさと攻め込んでジ・エンドだろーよ!
「てか、考えるのがめんどくせぇな。俺は考えるのが苦手だ」
……やめてくれよ、ヨウ。チーム全体がお馬鹿だと思われるだろう。
「気が合うなぁ。おりゃあ、その手段が一番好きだ。喧嘩はなあんも考えず動くのが一番だもんな」
「ああ、同感だな」
能天気に笑声を上げる両者チームの頭。
おかげで緊張感漂う空気がキレイサッパリに掻き消え、代わりに漂うのは皆の落胆と不安を含むズーンっと淀んだ空気。
嗚呼、皆苦労しているんだな。
考えなしに動くリーダーに苦労しちゃっているんだな。
ある意味、これとは別の同盟が組めそうだ!
……似ているよな、浅倉さんとヨウって。
お互い真っ向勝負が好きそうだもん。
「ヨウ……」
これ以上チームのレベルを落とすのはやめてくれ、副リーダーのシズがヨウの脇腹に肘打ち。
「浅倉さんも」
真面目に考えましょうよ、同じく副リーダーの涼さんが溜息交じりにツッコむ。
悪い悪いと片手を出すヨウは、改めて俺等に疑問はあるかと聞いてくる。
今のところは別に無いけど……俺は軽く顔を顰めて商店街の地形をぐるぐると考える。正しくは商店街外の地形を考えていた。
不利だな、浅倉さんチームの陣取った場所は。んでもって榊原チームは有利だ。
もしも地形を目論んで、榊原が南の陣地を取ってたとしたら、本当に策士だぞ。
だって南は……。
眉根を寄せている俺を余所に話し合いは進む。
今回の集会は“話し合い”というよりも、実情は説明会に近かった。
俺等のために浅倉さん達が懇切丁寧に説明をする、みたいな流れになっている。
ある程度の話し合いが終わった後、浅倉さんは陣地の状況と敵の動きを見てくるよう仲間内数人に指示した。
するとヨウも仲間を同行させると意見し、三人を抜擢。
もしも喧嘩になった時のために腕の立つキヨタ。状況判断が長けている響子さん。そして俺の三人だ。
おい嘘だろ、怖い怖い不良さんを偵察かよ! と思った反面、ヨウが指名した意図を汲み取る。
正直、感謝したくなった。
だって自分の目で確認できるから、商店街の地形を。
ただ向こうのチームからの反応はよろしくなかった。
ひとりは女だし、残り二人は見た目真面目くん。
不良とかけ離れたイメージを抱く人間が同行するため、こいつ等で大丈夫なのか? と、不安を抱いたようだ。