青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―

 

「おい荒川」


浅倉さんが物言いたげな顔を作った。


陣地の状況と敵の動きを偵察するということは、最悪、敵方と遭遇して喧嘩になるうるかもしれないということ。


彼はシズやワタルさんなど、手腕のある人間が同行した方が良いんじゃないかと考えているようだ。


その証拠に浅倉さんが抜擢した人間は見た目的にもガタイがある野郎ばかりだ。

けれど、ヨウは何食わぬ顔で俺達に宜しくと片手を挙げてくる。変更する予定はないらしい。


「響子、陣地の状況をしっかり見てきてくれ。キヨタ、もしもの時は先陣に立て。ケイ、テメェの動きたいように商店街を見て来い。

ああ、そうそう。
喧嘩になったら、とりあえず全部潰せよ。

今、ヤマト達に俺と浅倉が手を結んだなんて知られたら面倒なことになる」


「分かった。うちとキヨタで潰す。なあに、キヨタがいるんだ。大丈夫だろ」


意味深に笑う響子さんに、


「テメェは少し控えろよ。女なんだから」


ヨウが釘を刺す。


「いや、どうかなぁ。実は男のアレがついていたりねぇ」


ワタルさんが余計なことを言った瞬間、響子さんのハイキックが炸裂した。

顔面を強打し、くらっと倒れるワタルさんの哀れな姿を見た浅倉さん達はさぞ胸に刻んだことだろう。

響子さんを怒らせるべからず、と。


「にしても、チビと荒川の舎弟は……大丈夫かよ」


浅倉さんチームのひとりがぽつんと本音を漏らす。

申し訳ない、俺は大丈夫じゃないです。

響子さんやキヨタと違って手腕皆無です。


これでもヨウの舎弟として毎日を必死に生きているんだけど、頑張ってはいるんだけど、やっぱり喧嘩の能力は零なんです。


まったく使えないからヨロシクお願いしやす!


「ちょっ、大丈夫ってなんっスか! ケイさんを侮辱するのは俺っちが許さないっすよ!」


ここでしゃしゃり出てきたのは同行するキヨタだ。

聞き捨てならないと吠えるチビ不良は、


「兄貴の実力を知らないから」


そんなことが言えるんだと鼻息を荒くした。

キヨタもまた不安を煽っている要素なのだけれど、それには気付かず、ひとりで興奮している。

あああっ、こいつはもう……俺をこんなにも愛してくれちゃって。おかげで面倒事が増えるだろ!

「き、キヨタ。落ち着けよ」

必死に止めるんだけど、

「ケイさんは凄いんっスよ」

燃えに燃えているキヨタはグッと握り拳を作って高らかに吠えた。


「ケイさんはチームイチの男前なんっス! 舐めたら痛い目を見るっスよ!


……確かに身形は地味っこくて不安を煽るかもしれないっス。

俺っちも失礼ながら、初対面当時は思っていました。

こんな人がどーしてヨウさんの舎弟なんだと思った時期もありました。


だけど一皮剥けば、誰よりもクールで男前! 爽やかで輝いているっス! その心意気に惚れない女はいないっス! 男だって尊敬しちまうっス!


それに、ケイさんは俺っちにとてもとても大切なことを教えてくれました。

何だと思うっスか?
……それはっスね、人は見た目じゃない、中身が大事なんだってことっス!

俺っち、ケイさんほど男前な人は見たことないっス!

ケイさんは俺っちのハートを盗んでいった罪作りな男っス!

ルパンも顔負けな手際の良さでハートを盗まれたっス!


罪な男っスね……あ、ケイさんなら罪さえも許されると男っスけど!

なんなら俺っち、一晩かけてケイさんの素晴らしい武勇伝を語ってもいいっス。武勇伝、武勇伝、武勇でんででんでんLet's go! ケイさんカッコイイ!」



カンカカンカカンカカッキーン。


ハイ、キヨタの発言、いつにもましてライク美化されている。ペケポン!


フッ、決まったぜ。俺、マジで芸人さんになれるかも。


こんなにもノリノリにキヨタの無茶振りを心中で……心中でノった俺の大馬鹿野郎。でも口に出して言わなかった俺は凄い! 偉い! 成長した! んでもって……。



「あああっ、すみません! 気にしないで下さい! この子、ちょっと俺を美化して見る傾向があるんです。
偏見と言いますか、妄想と言いますか、過大評価すると言いますか。素敵で兄分想い、でも残念っ子なんです。キヨタには後でよく言っておくます。ほんっとすみません」



弟分の無礼講に頭を下げる羽目になったのだった。

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