青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
あだしごとはさておき、俺はキヨタ、響子さん、そして向こうチームの不良さん方と共に陣地状況と敵の動きを偵察しに赴いた。
今回は向こうチームの不良さんのバイクに乗せてもらう。
“足”としての活躍はなし。
少々寂しい気持ちもするけれど、楽チンだったからよしとしよう。
たまには休暇があったっていいだろう?
夕暮れから夜に染まる紫紺空の下、俺達は敵対している不良達に悟られぬよう気を付けながら、商店街周囲をぐるりとバイクで走る。
商店街一帯にはごつい不良がチラホラ見受けられた。
素通りするバイクに不良が乗っていたら、ギッとガン飛ばし(恐!)、警戒心と威嚇をいっぺんに向けてくる(真面目に恐!)。
どうやらそんな態度を取る不良達は全員、『エリア戦争』に関わっている不良達のようだ。
幸いな事に、各々敵方の陣地に乗り込む様子は見受けられないけど、何処も一触即発の雰囲気を醸し出している。
半歩でも足を踏み入れたら、その瞬間に地雷を踏んでドッカーン、喧嘩が勃発しちまいそう。おそろしやおそろしや。
バイクの切る強風を正面から受け止めつつ、俺は目を眇めて商店街の風景を観察した。
敵対しているチームの様子は他の面子に任せることにする。
ヨウが俺を指名したのは俺に敵の観察をして欲しいわけじゃない。
ただ不良達の観察をするくらいなら俺じゃなく、判断力と分析力に長けているワタルさんを抜擢しただろう。
言葉にしなくても分かる。
ヨウが俺に任せてきた仕事が。
流れすぎていく風景を観察を凝視する。
目まぐるしいスピードで通り過ぎる景色は、自分の目で確認するだけの価値はある。
運転している不良さんに愛と勇気と根性を持って(今日の最重要ポイントだぞ!)、少しだけ商店街の道も走ってもらった。
暮夜の刻となる。
一頻り、商店街を見て回った俺達は、これ以上偵察する必要もないだろうと判断し、たむろ場に戻った。
すると早々首を長くしていた両チームのリーダーが呼びつけてくる。
既に話し合いはどう相手チーム達を伸していくのか、その作戦に移っていたようだ。まずは敵の様子を報告。
向こうの動きはまだ見受けられない、そう告げると、浅倉さんはそうかと頷く。ある程度予測していたみたいだ。
一方、ヨウは腕を組んで意味深に息をつくと、
「てめぇの方はどうだった?」
主語もなしに俺に質問を浴びせてくる。
舎兄と同じ顔をして、
「俺なら南を取るね」
現状を有りの儘に伝えた。
「四つの陣地の中で、一番有利なのは南なんだ。なにせ、あそこには裏道がある。それを踏まえて陣地を取ったなら、向こうの戦略勝ちだ」
「ケイがそこまで言うってことは……戦力に次いで地形的にも不利か」
「あの、何の話です?」
浅倉さんの隣に立っていた涼さんが首を傾げてくる。
「地形の話」
単刀直入に申すヨウは、舎弟(つまり俺)に地形を見てきてもらったのだと回答。
「ケイはチームイチ土地勘に優れている。商店街や周囲の地形を見てきてもらったんだ。こいつなら商店街の土地を攻略してくれると思ったからな」
「ンー、この地味っこい奴がなぁ?」
半信半疑の浅倉さんに俺は空笑い。信用されてねぇな、おい。
疑心を払拭するように、
「ケイの土地勘は確かだ。それは舎兄の俺が保証する」
ヨウが静かな声音で明言した。
「具体的にてめぇの見た問題点を挙げてくれ」
舎兄に頼まれたため、軽く説明する。