青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
俺が南の陣地を有利だと思う点は周囲の抜け道にある。
商店街内の地形はさほど問題視しない。どこを陣取ったって、たかが商店街内部。
細かい道は存在するけれど単純な道が連なっているし、規模的にも商店街は狭い。複雑な道中にはなっていないから大丈夫だろう。
問題なのは南陣地の周辺。
商店街に行く際、近道として裏道が存在する。
そこを使えばチャリで5分以内に大通り道に出られる。
もう察してくれていると思うけど、その裏道が宿敵榊原チームが陣取っている南入り口付近なんだ。
「この裏道は直接大通りと繋がっている。
例えば俺達が榊原を追い詰めるところまで追い詰めたとしても、向こうに存在する裏道を使われたら協定を結んだ不良の援軍がやって来る可能性がある」
それこそ日賀野達がやって来る可能性もあるし、向こうが別の協定チームと手を結んでいたとしたら、その応援も来るかもしれない……。
幾ら俺達でも援軍が束になってかかってこられちゃ不利も不利。最悪、全滅する可能性がある。
どんなにヨウ達が強くても数が多かったら、こっちのスタミナが切れちまうって。
榊原達が陣取っている南周辺の裏道は近所でも知れているから、その道を知らないとは思えない。
なにせ、あの裏道は凄く便利なんだ。
商店街から普通の道を使って大通りに出るためには15分を要する。
けど裏道を使えば5分で済ますことが出来る。
行き帰り一本道。とにもかくにもあの裏道はとても便利なんだ。
榊原達も多分それを知っていたから、より優勢を保つために南の陣地を取ったように考えられる。
「あの道さえなかったら、向こうの優勢も簡単に崩す事ができるんだろうけど」
「一本道なんだな? 裏道は」
「ああ。平坦一本道。チャリ3分前後、徒歩10分ってところかな。走れば間を取って7分前後」
「なるほどな。ハジメ、今の状況をどう分析する?」
俺の説明に一頷きしたヨウは、振り返り背後に立って話を聞いていたハジメに意見を求める。
眉根を寄せるハジメは一思案した後、
「一本道なんだね?」
再三再四俺に状況確認。
頷いて見せれば、「待ち伏せは使えるよなぁ」盛大な独り言を漏らした。
直後、我等がリーダーに意見する。
「例えば、援軍を懸念するんだったらその一本道の出入り口。
特に商店街から大通りの流れに沿う入り口で待ち伏せ、援軍を呼ばれる前にはっ倒す手が一つ。
仮に携帯で援軍を呼ばれた場合は、大通りから商店街の流れに沿う入り口で待ち伏せ。一気に伸す手が一つ。二通りの手段が今のところ考えられる。
ただし懸念し過ぎると当初の目的を見失いかねないよ、リーダー」
「ヤマトチームのために俺等が一本道のところに待ち伏せていたら……『エリア戦争』の方が疎かになるってことか。
ヤマト達は俺等が食い止めるのが一番だろうが、目的を履き違えるのも気が引ける。負けたら意味がねぇ」
「僕の考えとしてはヤマト達が喧嘩に出ている隙を狙うのがいいと思うよ。
向こうも血の気が多いからね。『エリア戦争』に僕等が加担していると知らない内は自分達の喧嘩を楽しむだろうし……弥生が情報を集めてくれる筈だよ。ね?」
ハジメに話を振られ、弥生は擽ったそうに、けれど得意気に綻んで任せておけと首を縦に振った。
「ハジメにそう言われちゃ、頑張らないわけにはいかないじゃん」
一瞬でもアッマァイ雰囲気を感じたのは俺だけか、俺だけだろうか、俺だけなのだろうか。
くそう、リア充め! フリーへの嫌味だろ、それ!
そんなにも甘い雰囲気作ってからにくさ! 俺もリアリアに充実してぇ!
……彼女が欲しいよなぁ、切に。
甘酸っぱい恋をしてみた……い、と思った瞬間、どっかの誰かさんが脳裏を過ぎって俺はひとりこっそりと悶絶(心中の俺「何故にあの子が脳裏を過ぎるんだチクショォオオオオオオ」)。
嗚呼、自分で自分の首を締めた気がしてアウチな気分だぜ!
そんな俺の余所で、意見を聴いたヨウは皆の意見をブツブツ反芻。
「こりゃ時間との勝負だな」
結論づける。