青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―







「――イテテテッ、ケイ。ちょい力入れ過ぎ」

「あ、ごめんごめん。でも消毒はしないと、お前、折角の美貌が台無しになるぞ。頬も腫れちまって……モトも発狂するぞ、っと。よし、こんなもんか」


軽く口端部分をガーゼで固定した俺はヨウにタオルで来るんだアイスノンを手渡して、救急箱に消毒液を仕舞う。 


「悪いな」


突然の訪問に謝ってくる舎兄だけど、


「気にするなって」


家族はお前のこと気に入っているんだから、肩を叩いて首を横に振る。


何があったかはヨウ自身から直接聞いた。

父親と喧嘩してぶん殴られたこと、無一文のこと、携帯の充電のこと、当初の目的のこと。


そら前触れもなしにヨウの姿が居間にあったことはめちゃくそ驚いたけど(なんのドッキリかと思った!)、てっきり俺は泊まりに来たんだと思っていたんだ。


そのつもりで話し掛けたらこそ、当初の目的を聞いた時は居間に姿を現した以上に驚いちまって。


「どっか泊まれる予定あるのか?」


思わず聞いちまった。


ファミレスで夜明かしするくらいなら泊まっていけばいいじゃん、折角なんだし。そう付け足して俺はヨウを歓迎した。

だってなぁ、この時間にヨウを外に放り出せるか? フツーに出せねぇよ、向こうは怪我をしているのにさ。


「でもなぁ」


最初こそヨウは遠慮を見せたけれど、

「庸一くんお風呂は入った?」

話に割ってきた母さんが笑顔で応対。


「ご飯の後がいいかしら? それとも前? あ、今日の夕飯はエビフライだけど好きかしら? ごめんなさいね、有り触れたものしかないんだけど。エビフライは何本がいい?
そうそう圭太。庸一くんの寝巻き、圭太のジャージでいい思う? それしかないんだけど、って、サイズ合うのかしら。確か二着あったんだけど……ちょっと待ってね。持ってくるから」


「……ヨウ、泊まっていかないと母さんがすこぶる落ち込むと思う。もう夕飯二人前作っているみたいだし、俺一人じゃ処理できないって」


「……じゃあ、お言葉に甘えて」


まあまあ、こんなことがあったからヨウのアポなしのお泊りが決定。 

自室にいた浩介も遊び相手が来てくれたとサプライズ訪問に喜んでいた。


居間に入るなり、


「ねえねえ遊ぼう!」


ヨウに纏わり付く始末。


不良相手でも俺の友達だと分かった途端、この熱ある歓迎っぷり。

ついでに父さんが一緒に晩酌でも、なんて冗談をかましてくるもんだから本当に困ったもの。


我が家って、つくづく煩い人間ばっかだよ。


そんなこんなでバタバタはしたけれど、無事に俺はヨウと夕飯にありつくことができた。

俺は勿論、ヨウも親と喧嘩したからなのか相当空腹を感じていたみたいだ。

食べるペースがいつもよりも早かった。勢いよくエビフライにパクついている。


ちなみに俺達は台所のテーブルで飯を食っている。


居間のテーブルでは父さんが晩酌していた。

居間で取っても良かったんだけど、母さんが話しやすいようにとヨウを気遣って台所のテーブルで食事を取るよう勧めてきたんだ。


母さんの配慮のおかげで、ヨウも気兼ねなく俺に話し掛けてきてくれる。

母さんの気遣いはヨウにとって大きなプラスだったようだ。


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