青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「おかわりがあったら言ってね。大したものはないけど」
新たに揚げたエビフライの皿をテーブルに置いた母さんが人柄良く微笑む。
「すみません」
申し訳無さそうにするヨウに、「いいのよ」我が家のように寛いで頂戴ね、と返事した。
「言い難かったら圭太に頼んでもいいわ。ゆっくりしてねっ……お父さん! 今日飲んで来たんでしょ? 今、注ぎ足した焼酎何杯目?!」
愛想良く笑顔を向けていた母さんが一変。
父さんがこっそりこそこそ焼酎をグラスに注ぎ足したもんだから、素っ頓狂な声音を上げた。
「いいじゃないか」
のほほん笑う父さんに、
「いけません!」
母さんがキィキィ喚きながら居間へと姿を消す。
父さん、母さん……客人の前でまんま素を曝け出しているよ。
息子はとても羞恥を覚えるんだけど。
まあ、ヨウも何回か家に泊まりに来ているから慣れてきたとは思うけど。
「おとーさん! いい加減にしなさい。一日焼酎は二杯って決めているでしょ!」
「怒ると皺が増えるぞ。若かりし時より、確実に増えているだろうけど」
「そ・れ・はお父さんが増やす原因を作っているんです! んもう、圭太、庸一くん、こんな大人になっちゃ駄目よ!」
なんで俺等に振るよ、母さん。
呆れる俺と呆気に取られているヨウを余所に、母さんはガミガミと父さんにお小言を垂れている。
父さんはもうどこ吹く風でテレビの方へと逃げていた。
ああ、こりゃもう少し母さんのお小言が続きそうだな。
「なんかいいな、ああいうの。ほのぼのする」
全力で否定していいか?
向かい側に座っているヨウに視線を投げれば、
「こういう家に生まれたかった」
微苦笑を零して、父さん母さんのやり取りを見つめているヨウの姿がそこにはあった。
物欲しそうな目をしている舎兄にびっくりしてしまう。
まんま子供のような顔は希少な姿だった。
「おじちゃんもおばちゃんも優しくて楽しいや。俺のところとは大違いだぜ」
本気で田山家の養子にでもなっちまいたい、ヨウは不機嫌にエビフライを口に放り込んだ。
「俺の親父なんて、時たまに帰ってきたと思ったら『庸一。また自分の愚行で家族に迷惑を掛ける気か?』だとかほざく。るっせぇってんだ。俺の何を知ってやがる。しかもなんで殴るんだよ。ワッケ分かんねぇ親父だ」
「大変だな、ヨウのところ」
ヨウも随分溜まっていたようだ。
「んでさ」
堰切ったように両親の愚痴を俺に漏らしてくる。
殆どこういった愚痴は漏らさないヨウだけど、限界だったみたい。
誰かに腹の底から抱いている怒りを聞いてもらいたかったらしく、矢継ぎ早に文句の連続。
過去は遡ること小学校時代、若かりしき小学生時代の頃から思っていた愚痴を俺に吐露してくる。
離婚する前のことからグチグチ、ブツブツ。
そんなヨウに俺は相槌を打ったり、言葉を簡単に返すことでヨウの捌け口になってやった。
俺が健太のことで弱音の捌け口をヨウに向けたように、ヨウも俺に不満を吐いたら良いと思う。
誰かに聞いてもらうことで幾分マシになるだろうしさ。