青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「うちの親父。昔から躾に厳しくてさ。なにかと叩かれて育ってきた。
俺がしていなくても、俺に疑いを持ったら叩かれてメシを抜かされたもんだ。弁解の余地もなくだぜ?
亭主関白が当たり前で、おふくろに躾への口出しは一切禁じた……おふくろってのは、俺の実母のことな」
「もう、会っていないのか?」
「親が離婚してからは一切会ってねぇ。
あいつも、結局自由ほしさに家庭を捨てたんだよ。当初は俺を引き取るうんぬん言っていたくせに、現実はこれだ」
だから大人なんて信用できないのだとヨウは皮肉った。
こうして話を聞いていると、本当にヨウのところは大変なんだな。
両親の離婚に再婚。
ヨウにとって実母に当たる母親とは離婚後一度も会えていないみたいだし、今の母親とは実父同様上手くいっていないようだ。
寧ろ不良の自分を過度に避けている、何もしていないのに。
ヨウはイミフだと鼻を鳴らした。
義姉だけが味方にはなってくれるけど、別段仲が良いわけでも悪いわけでもないらしい。
ゆえに、こういった愚痴は吐けないとヨウは苦言する。
そりゃ鬱々とした鬱憤も募っていくわけだ。
「家は嫌いだ。あそこは監獄も同然だから」
学校や外ではチームのリーダーしているけど、家では複雑な家庭事情に随分と悩まされているんだな……ヨウ。
同年代なのに重たい苦労を背負っている。
イケメン不良も色々あるんだな(顔は関係ないと思うけどさ)。家に居場所がないってのも辛いよなぁ。
「仕舞いにはあいつ、俺のこと息子じゃねえって言いやがった。俺だって、好きで息子をしているわけじゃねえし。
ああくそっ、腹が立つ。
どーもあいつは不良になった俺を軽視しているみてぇだ。それ以前から軽視はしてたみてぇだけど? 苛々する……なんで俺がこんなクダラネェことで腹を立てなきゃいけねぇんだ」
テーブルに伏して、沈んでしまう。
殆どなくなっているグラスに麦茶を注ぎ足してやりながら、
「クダラネェことでもお前にとっては大きなことなんだろう?」
と問う。
「わっかんね」
曖昧な言葉を紡いで上体を起こすヨウはグラスに手を伸ばし、それで喉を潤した。
「怒れば怒るほど虚しさだけが残る。だから、俺の中でやっぱりこれはクダラネェことなんだと思う」
「そうか」
俺はどっちつかずの相槌を打ち、ヨウの心情に耳を傾けてやる。それが俺にできることだと思ったから。
「早く家を出てぇ」
ごちる舎兄に、
「一人暮らしを始めたら呼んでくれよ」
遊びに行ってやると一笑を向ける。
気が落ち着いたのか、ヨウが決まり悪そうに笑みを返してきた。
「悪いな、飯を不味くした」
空になった茶碗を見つめるヨウに気付き、俺は箸を置いてそれを取った。
「別に気にしてないって。明日も父親がいるんだったら此処に泊まっちまえよ。それに今は『エリア戦争』でゴタゴタしているんだし……どこかで休息しないと、パンクして潰れるぞ。お前」
椅子を引いて立ち上がると、炊飯器を置いている台へ向かう。
しゃもじで白飯を掬い、それに盛るとテーブルに戻った。
「ほれ」
ヨウに手渡し、置いていた箸を持つ。