青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「何だよ、人の顔をジトーッ見て。そんなに見ても平凡顔がイケメンになることはないぞ?」
さっきから凝視するように見つめてくるイケメンは、何か思うことがあったらしい。
「ケイってさ」
白飯を箸で掬い上げながらぽつ、と吐露する。
「変わったよな」
意図が読み取れず、動きを止めてしまう。
向かい側に座っている相手と視線を合わせると、「ケイは変わった」同じことを繰り返す。
「最初はあんなに必死こいて俺達に合わせようとしていただろう? ケイ、不良にかんなりビビッていたし。あ、それは今もか」
「はい?」
俺は間の抜けた声を上げてしまう。
「ん? 違うのか? 俺から呼び出し食らった時とか最高にビビっていただろ?」
人のことを箸で指してくるマナー違反の不良に愕然としてしまう。
「ちょ、ちょ、ちょ……ちょい待て。な、何だよ、お、お前。気付いていたのか?」
「おう、フツーに」
首肯するヨウにありえねぇと悲鳴をあげてしまった。
俺が表向きオトモダチで頑張りますよ。
でも内心不良恐くて仕方がありません、勘弁して下さい……の、気持ちを、こいつは普通に感じ取ってくれていたのかよ!
俺を面白がって舎弟にした時は、結構なカンジで空気が読めていない不良さんだとばかり思っていたのに。
えええっ、ナニその今更ながらの今更過ぎるカミングアウト! ゼンゼン嬉しくねぇ!
せめて最初の方でそれをカミングアウトしてくれよ!
だったら俺も「じゃあ不良恐いんで舎弟の話も白紙に」「あ、そっちの方がいい?」「はい」「んじゃ白紙にすっか」「そうしましょう。これからもオトモダチでヨロシクです」「おう」「あはは」「あはは」の流れにしていたよ! 頑張ってしていたよ!
空気を読めていたなら、俺にその姿を見せて欲しかったっつーの!
今度は俺がテーブルに伏せてしまう。
「よ、ヨウ。お前、マジ今更。俺、どんだけ頑張っていたと」
「ははっ、懐かしい思い出じゃねえか。一年も経ってねぇけど」
能天気に笑うヨウの小憎たらしさといったら。脛を蹴っ飛ばしてやりたくなるね!
のろのろと上体を起こして深い溜息をついていると、
「何が遭ってもケイは離れて行かなかった」
それが俺にとってどれだけ支えになったか。ヨウが静かに心情を明かす。
正確には離れることが恐かったんだよ。
あと二年はヨウと同じ学校に通わないといけないんだぜ?
もしかしたら同じクラスになるかもしれない。そうそう離れて行けるわけないじゃないか。
俺はしっかりと空気を読む子だぞ……まあ、最初の方は恐くて離れられなかった。ただそれだけだったんだ。
不良という未知数な人種に絡まれて、呼び出されて、色々と騒動が遭って。
それがいつの間にか、ヨウ達がいて当たり前の生活になっているから不思議だよな。
不良は今でも恐いし、俺は喧嘩ちっともできねぇけど、俺の中で不良のいる生活は必然となっている。
もし、荒川の舎弟ならなかったら、こうして舎兄が俺の家に泊まり来ることもなかっただろうな。
「もしも、あの時ああなっていたら……今日はよく考えるんだ。例えば俺がチャリ通じゃなくて徒歩通だったらさ、俺等が関わることもなかったよな? 俺がタコ沢をチャリで轢くこともなかっただろうし。
ヨウがタコ沢と喧嘩していなかったら、やっぱり関わる契機は掴めなかった。それにもしも俺が……日賀野の舎弟になっていたら今頃俺達はどうなっていたんだろう?」
胸に引っ掛かっている疑問が自然に零れてしまう。
不快感を表に出すことなく、寧ろ微苦笑で俺の言葉を受け止めたヨウは軽く肩を竦める。
「ンだよ、同じことを考えていたのか。もしかして浅倉から舎弟の話を聞いたのか?」
「いや二代目舎弟の桔平さんからだけど……ヨウは浅倉さんから話を聞いたのか?」
「ン」肯定の返事をするヨウと俺の間に沈黙が流れる。
タイミング良く母さんが父さんに大声で説教を垂れたから(まーだ続いてたのかよ)、それに苦笑い。
俺等は話を打ち切って遅めの晩飯を平らげた。