青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
◇ ◇ ◇
俺、一応今まで学校では良い子ちゃんの部類に入っていた。
ウザッたい教師の説教も素直に聞く振りをしていたし、教師があーしろこーしろ指示してきた事も適当にこなしていたし、風紀検査もよっぽどの事がない限り引っ掛かることはなかった。
好きで良い子ちゃんになっていたわけじゃない。
校則を破るだけ面倒なことになるし、教師の話も適当に聞き流せば何も言われない。
つまり説教垂れられるのが面倒だから、素直に話を聞いていた。守っていた。
ただそれだけ。地味で平凡日陰生徒なら、俺の気持ち分かってくれると思う。
だって面倒じゃん? 色々言われるのってさ。
そういう厄介事に関わりたくないから、俺、今まで良い子ちゃん生徒として学校に通っていたのに。
「田山。お前が携帯持って来ているなんて珍しいな」
「好きで持ってきているんじゃねーよ」
引き出しにコッソリ携帯を入れて操作していたら利二に見つかった。
利二に見つかったからと言ってどうこうなるわけじゃないから、俺も安心して携帯を弄くることが出来る。
担任の前橋が来たら教えてくれるよう頼み、俺は携帯のボタンに指を掛けた。
すると透が俺の席までやって来て「僕、チクっちゃおうかなー」、ワザワザ茶化してきやがった。
それはマジ頼むから止めてくれ。
携帯見つかったら解約させられちまうだろ。
保護者呼び出しの刑になっちまうだろ。
そんな面倒で厄介な事には巻き込まれたくないっつーの。
軽く透を睨めば、透が「ジョーダンだって」と俺におどけてみせる。
俺は鼻を鳴らして携帯画面を閉じる。
今、俺がしていたのはメールの返信。誰に返信って、そりゃ……一応、俺の舎兄に当たる奴。
深い溜息をついた直後、携帯さんが忙しく振動し始めた。返信早過ぎだろ。
携帯画面を開こうとしたら、透が俺の肩をチョンチョン指で突っついてきた。
「何だよ」
俺が口を開こうとする前に、透が困った顔をして目の前を指差す。
指差した方向を見れば、俺の前に仁王立ちしている学級委員の横野さまが……最悪!
「田山くん。アナタ、それは何ですか!」
俺の手元を指差す横野に、俺は引き攣った笑いを見せてやる。
超真面目学級委員は俺の手元の物を不要物と捉えたようだ。腰に手を当て「田山くん!」って怒鳴ってきた。
「携帯は学校に不必要でしょ! アナタは風紀を乱すつもりですかー!」
「お、お、俺だけの力で風紀を乱せたらスゲェって!」
「自分だけはいいや。そういう考えが増えて風紀を乱していくのです!
考えてみて下さい。ひとり道端にゴミを捨てる人が出てくると、この人もやっているんだという安心感が生まれ次々にゴミを捨てていきます。それが大きくなり今、環境問題に発展しています! それと同じ原理ですよ! 田山くん!」
横野さま、携帯一つに環境問題で説教垂れるのは……しかも俺が携帯持込の第一人者だと思われているようですが、周囲を見て下さいよ。
俺だけじゃなく、他の人も携帯を持ち込んで思い思いの事をなさっていますよ。
なんで俺だけ注意するんでしょうかね。
やっぱ俺が地味で日陰生徒だから言いやすいってヤツ?
いやいやいや! 例え、俺が言いやすそうな日陰生徒でも?
例え、俺が聞き分け良さそうな生徒でも?
この問題は平等に説教せねばならないのでしょうか。
俺だって光り輝く日向生徒と同じ生徒だぜ。同じ人間だぜ。平等に扱ってもらいたいって思うのは普通だろ。
ここはキッパリ言ってやる。
「田山くん、聞いていますか」
「え……あー聞いているけど。そのーあの、別に俺だけじゃ」
「何ですか?」
相手の目が据わっている。田山は無言の威圧にダメージを受けた。
「だから……俺だけ」
「言いたいことがあるならハッキリ仰って下さい」
「何でもゴザイマセン」
どーせ世の中、アンフェアだよ。
平等なんて夢だよ夢。
恐い顔を向けられて俺は冷汗ダラダラだし。