青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




ただでさえ不良に慣れてない(というか恐い)っつーのに、堂々と「伝言? 何それ? 何処のお方の伝言?」なんて聞いてみろって。


俺、ワタルさんに完璧焼きいれられる。

ワタルさんにカツアゲされる。

ワタルさんに殺される。


ついでに伝言を寄越したヨウにも殺されかねない。


朝から半泣きで必死に記憶を巡らせたよ。思い出そうと躍起になったよ。

朝飯、喉を全く通らなかったよ。

傍から見たら俺の顔は相当切羽詰っていてマヌケだっただろうな。


どうにか思い出せた時の、あの、言いようの無い嬉しさと言ったら、もう、言葉に出来ないぜ。


「忘れていたなら、俺に聞きゃ良かったんじゃね?」


お、おまっ、俺の努力と感動に水を差すなよ、なんてツッコめない俺は、顔を引き攣らせながら「そうだな」って愛想笑いを返す。

お前には分からないんだ。

この苦労と恐怖心と闘った俺の気持ち。そりゃお前の言うこと、ご尤もだけどさ。俺はお前に殺されないよう。


「ま、それはどうでもイイとして」


しかもどうでもイイ言いやがったなお前。


「ドタキャンすんなよ? ケイ」

「するかよ。有り難く行かせて頂きます」


俺、放課後にヨウと遊びに行くことになっているんだ。

ヨウは俺に自分のダチを紹介してくれるんだってさ。


はははは、終わった。ヨウのダチって言ったら不良、不良、これまた不良の集まり。


日陰凡人男子生徒が日向組不良に会うんだぜ。

ヨウはきっと俺を舎弟だって言うだろうな。既に舎弟がいると言っているみたいだし。

嗚呼、どんな白けた眼が飛んでくるんだろう。

想像するだけで胃が痛む。

俺の心情を知ってか知らずか「気の良い奴等バッカだぜ」、笑いながら背中を叩いてきた。


そりゃヨウにとって気の良い奴等でも、俺にとって気の良い奴等か分からないじゃないか。


「アイツ生意気。やっちまおうぜ」になんないかなー。憂鬱だ。不安だ。行きたくない。断れない俺、非常に情けないぜ。



「荒川くん! 貴方、机は椅子ではありません! 下りなさい! チャイムが鳴りますよ!」



あ、まだ横野、ヨウに注意していたんだ。

ヨウは横野の最後の言葉だけに反応して、時計に視線を送った。 


「お、もう時間か。ケイ、んじゃまたな。教科書借りるな」

「後で返してくれよ。現社、俺もあるんだからさ」


「わーってるって。ちゃんと返しに来る。教科書ねぇと寝れねえもんな」


机から下りてヨウは「またメールする」、俺に言葉を残して教室から出て行った。

呆然と見送っていた俺は取り敢えず手を振って「またな」と返す。


お前はカモフラージュを確保する為に教科書を借りに来たんかい!

しかも今の言い草、俺も教科書使って器用に寝ています、と言っているようなもんだぞ!

俺は一応、居眠りはしてねぇーよ!

うたた寝しそうになることはあるけど、頑張って授業受けているんだぞチクショー!


大きく溜息をついて額に手を当てる。

放課後、切に帰りたい。ホント。マジ。本気で。

ヨウのダチとやらに紹介された後、カツアゲとかされねぇーかな。リンチとか無いよな。



「田山くん」



まだ横野はいらっしゃったようだ。

落ち込んでいる時に横野の相手は辛い。

真剣な眼差しで横野は俺の机を叩いてきた。思わず驚いて声を上げる。

「な、何だよ横野」

「学級委員は何の為にいると思いますか?」

「……はあ?」




「学級委員はクラスの秩序を守る為、そしてクラスメート一人ひとりのサポートをする為、存在するのです。田山くん、貴方、もし何かあったらこの学級委員の横野梓に言ってきなさい!」




眼鏡を押して、俺に指差してくる学級委員・横野梓。


カツアゲされないよな? とか、リンチされないよな? とか口に出していたみたいで、横野が何かあったら学級委員の自分に言ってこいと胸を張ってくる。


何か頼もしいぞ、横野。

何かカッケーぞ、横野。


「ですが! この件と携帯は別件です! 携帯は以後、絶対に学校で使用しないように!」


フンと荒々しく息を鳴らして席に戻って行く横野。

だから携帯は俺だけじゃないって。何で俺だけに言うよ。

ああ、やっぱり横野って典型的な学級委員だよな。

俺を心配してきてくれているのか、利二や透がチラチラこっちを見て来る。が、チャイムが鳴ったら早々に自分の席に着いていた。


「ギリギリセーッフ!」


光喜が慌しく教室に入って来る。

あ、そういやお前、教室にいなかったな。

地味だからいなくても全然違和感無かったぜ。


どうでもいいことを思いながら、俺は永遠に放課後なんて来なくて良いと本日何度目かの溜息をついた。


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