青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「ちょーっと返してくれる?」
ぷぅっと可愛く膨れる(ちっとも可愛くねぇよ!)ホシが俺達に携帯を返すよう命令。
冗談じゃない。
あいつに連絡をされちまったら、こっちの計画が狂っちまう! 日賀野に連絡させることだけはさせねぇよ。
「連絡されたら困る、というところか」
スーッと目を細めて俺等を捉える斎藤が一歩、足を踏み出した。
やっべぇ。こりゃ来るな。
俺はハジメにもう一度肩を掴んでおくよう指示。
瞬間、チャリを漕いで大きく旋回させた。
あくまで俺の力は人の“足”になる移動とスピードに乗らせる手段でしかない。
喧嘩できる相手を乗せて初めて、爆裂的な攻撃力を生み出すことができる。今の面子じゃちょい無理があるわけだ。
「ケイ、頭低くして!」
ハジメの言葉に俺はちょいと頭を低く下げる。
ハジメは落ちる覚悟で俺の肩から両手を放して、持っていたホシの携帯に回転を掛けながら投げた。
「アアアアア! 何てことするの!」
悲鳴を上げるホシを余所に、携帯は斎藤の頬横を通り過ぎて、健太の手に命中。
正確には手に持っていた携帯に命中。
弾かれたように二つの携帯は宙を舞い上がって、向こうへと飛んでいった。
どーやら副頭に相手させておいて、健太は頭に連絡を入れようとしていたようだ。
まったくもって狡いぜ! ジミニャーノ不良! って、うわっつっ、どっわぁああ?!
副頭が前車輪目掛けて横蹴りを入れる。
それによって俺等はバランスを崩して転倒。
俺はハジメと仲良くアスファルトに叩きつけられた。
アイッテーっ、自転車ってのは前からの攻撃には強くても、横から攻撃されると、こんな目に遭う。
横は弱点だぜ、弱点!
打ち付けた肩を擦りながら、
「大丈夫か?」
俺はハジメに声を掛ける。
「なんとか」
でも背中打ち付けたと苦言を漏らす。
だよなぁ、スピードあっての転倒だから、俺も擦り剥いちまって擦り剥いちまって、あーいってぇ。擦り剥いて指から血が出てらぁ。青たんができてもおかしくないよなぁ!
「自転車がない舎弟は使えないと聞く」
どん、効果音にするとこの音がピッタリだろう。
俺等の前に赤い彗星が現れた。
あ、ちげぇ赤い副頭が現れた。
髪の色に反してこのクールっぷり! 同じ髪の色を持つタコ沢と大違いだな! ……てか、大ピンチ? 俺等フルボッコカウントダウン入っている?
「携帯の仇はとってね!」
能天気に応援するホシと、眉根を寄せたまま仏頂面で立っている健太の視線を受けながら、向こうの副頭は冷然と俺等を見下ろしてくる。
俺とハジメは顔を見合わせ、肩を竦めた。
「ヤーレヤレなんだぜ。またフルボッコされる羽目になるとはなぁ、ハジメ」
「だねぇ、ケイ。でもほら、今度は一人じゃなくて二人だから。死ぬ時は一緒だよ、と言ってみる」
「ンッマー、惚れちゃいそう。ハジメさん。その前に、ええいっ、そこの副頭さん! 今さっき自転車がないと使えないと仰ったけどな……じ、自転車以外にも俺には習字って必殺武器があるんだぞ!
あ、ナニその顔、習字がどうしたって顔しているな? 習字は精神力との勝負なんだぞ! この際だから教えておいてやろう!」
習字とは文字を正しく、美しく書く練習のことを言うんだ。戦闘スタイルはいたってシンプル。
今回は特別に毛筆編を特に教えてあげよう! 次回はないけどさ!
―戦闘スタイル(毛筆編)―
その1:墨汁をたっぷり吸った筆を持つ。
その2:半紙と向き合い、
その3:どれだけ字を綺麗に正確に丁寧に書けるか勝負をする。
文字vs俺の真剣勝負開始!
消しゴムで消すなんて手法がないため一発勝負。
謂わば真剣勝負なのだ!
俺、田山圭太は確かに自転車がなくなると使えない人間になる。それは認める。
だけど取り得としてもう一つ、真剣勝負に強い習字が得意だってことを覚えておいてもらいたい!
ちなみに熱弁している俺だけど、習字が大好きとかそうゆーことないっすよ! 寧ろ習字は親から習わされていたんで夜露死苦!