青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




「どーだ。人間っていうのは何か一つや二つ、必ず取り得がある。俺は習字が得意だからそれも覚えとけ!

……うっし、スッキリした。
日賀野と同じことを副頭さんにも言ってやったぜ。不良相手によく言った。がむばった俺。後はなーむになるだけだ。悔いはねぇや。未練はあるけど」


「ぶふっ、あっはっはっはっは! ケイっ、この状況でナニ言っちゃってくれてるの! しかもそれ、ヤマトに言ったわけ? あっはっはっは!」


場所問わず大爆笑してくれるハジメは「ヤマト相手に言ったんだ!」それは今からフルボッコにされる男が言う言葉じゃない。KY過ぎる! ヒィヒィ笑声を上げて、腹を抱える。


おいおいおい、俺の習字伝説をなんだと思っているんだよ、ハジメ。


いや、そりゃーKY発言だって自覚はあるけど、俺だってあの時はテンパって「ククッ」そうそう……こうやって日賀野を笑わせ、ン?


俺は顔を上げて今からフルボッコしようとする不良さんを見上げた。


副頭さんは俺等に背を向けると、スタスタと民家の塀に歩み寄ったと思ったら、しゃがみ込んで身を震わせている。


何をしているんだ、あの人。


口元に手を当てたりなんかしちゃってからに、まさか吐きそう?


此処で吐くくらいなら、コンビニでトイレを借りることをオススメするぜ! 何事もマナーは大事だろ!



血相変えたのは健太、「始まったよ」呆れているのはホシ。健太が慌てて駆け寄り、しゃがみ込んでいる副頭に声を掛ける。


「ああぁああ! ススムさんっ、大丈夫ですか!」


口元を押さえている相手からは応答は無い。やっぱりあれか? 吐きそうなのか?


「ナニ健太。その人、ガチで吐きそう? 俺、ビニール袋をそこのコンビニから貰ってこようか? エチケットは大事だぜ! こういう時は敵も味方もない!」

「あ、お気遣いどーもどーも。確かに敵味方関係なくエチケットは大事ですよねぇ」


「エチケットは人間社会のマナー! 皆で守ろう、社会マナー! 忘れないでジャック、俺も貴方も敵の前に同じ人間よ!」

「デイビット、忘れていたよ。君も同じ人間だったことを!」



「ちょ……ケンまで、どうしたの?」



どん引きしているホシの一言により、ハッと健太が我に返る。


「しまった。乗せられた」


頭を抱え、どーんと落ち込む健太はやっぱり俺と同じ調子ノリのようだ。

こうやって乗ってくれる健太を見ていると、まだ俺の知っているあいつなんだなと安心できる。


はてさて、忘れられそうになっていた副頭さんは俺等のやり取りを聞いて咳き込み始めた。


ガチで吐きそうなのか?

さっきから身を震わせているけど……フルボッコどうするの? あ、別に望んでるわけじゃないけどさ!


「け……ケン。笑わせるな。さっきからツボって、し、し、死にそうだ」

「こ、こんな時にツボらないで下さいよ! ススムさん! 本当に笑い上戸なんですから!」 

えええっ、あの人笑い上戸なの? 


超クールそうに見えるのに……んじゃ、さっきブルっと震えていたのは俺の返答に対して必死に笑いを堪えていたからか?


ンマー、面白い返答をした覚えはないんだけど。

人間って見た目だけじゃ分からないよな。


まあ、笑うことはイイコトだと思うよ。


笑う角には福が来る、だしな。

きっと副頭さんは毎日が福でいっぱいなんだろうな。


完全にツボっている副頭さんに溜息をついた健太は、キッと俺を睨み(ええっ俺に責任ありかよ!)、「卑怯者め!」非難の嵐。


「ススムさんが笑い上戸なのを知っていて、面白可笑しい馬鹿なことを言うなんてっ! クソ地味!」


く、クソ地味!

地味に地味と言われて俺、カッチーンなんだけど! 不良だろうと、相手は健太。カンケーねぇ!


「だっれが地味だ!」

「お前だ!」


いや、まったくもってそのとおりではあるけど、お前にだけは言われたくないぞ!


俺は立ち上がって、健太を指差した。


「お前にだけは死んでも地味なんて言われたくねぇよ! 不良気取ってもどーせ中身はチキンジミニャーノのくせに!
本気で日向デビューしたいなら、いっそのこと白にでも染めちまえバーカ! 俺をビビらせてみやがれってんだ!」


「んだと、このKYジミニャーノ! さっさとフルボッコにされれば良かったんだよ!」

「あーあーあー。お友達にそんなこと言っちゃう? 言っちゃうんだ? だったら此処で暴露しちまうぞ。お前の巨乳好き!」


「ちっげぇ! おれは貧乳好きっ……ああぁあああ! また乗せられた! お前と話すだけで調子が狂う!」



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