青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



両膝をついて落ち込む健太に、俺は一本取ったと握り拳を作った。


知っていたさ、お前のひんぬー好き。

敢えて巨乳を出したのは、お前が乗ってくれるって分かっていたから――なあ、健太。


お前はあの時ですべてが終わったと思っているだろうけど、俺は終わってないと思っている。思っているんだ。

埒が明かないと判断したホシが携帯を取りに動こうとしたのを視界端で捉える。


「ハジメ!」


そっちは頼んだと声音を張り、俺は健太に突っ込む。


ハジメは地を蹴って、ホシよりも先に携帯を駆け出した。

俺はというと、戦闘復帰にもう少し時間が掛かる副頭を差し置いて、健太のお相手。


あんま喧嘩はできないけど、足払いして相手の体勢を崩しに掛かった。


地面に手をつく健太だけど、手際よく足を出して俺の腹部に靴底をめり込ませる。

随分と健太も修羅場を掻い潜ってきたようだ。喧嘩に幾分慣れている動きを見せる。


「チッ」


俺は舌を鳴らして、その足を掴むと一気に上に持ち上げてバランスを崩させた。

尻餅をつく健太に馬乗りになって、俺は胸倉を掴む。


そして敵意剥き出しの友達に言ってやるんだ。


「健太、俺はお前をまだ友達だって思っているよ。絶交宣言してもさ。俺はお前を友達として見ることにした」

「ッ、何言って……フッザけるな!」


俺の手を腹って胸倉をつかみ返してくる健太は、怒号を上げた。


「誰がお前と友達だ! おれ等は終わっているんだよ! 古いおれ等はもういらねぇんだ! ……いらねぇんだよ。分かれよ、馬鹿」


「焦って答えを出すことはやめにしたんだよ。そりゃ俺は……ヨウの舎弟でお前は向こうのチームだけど。どんなにお前が敵のチームに身を置いていようとも、中学時代の関係に後悔はないし、感謝もしている。
だから、俺はお前を今までどおり友達として見ていくことに決めた。これからどうしていけばいいか答えが見つかるまで、いや、見つかっても、俺はお前を友達として見ていく」


怯みを見せる健太だけど、ギュッと顔を顰めて俺の面を殴った後、押し倒してくる。


いってぇな馬鹿。

思いっ切りグーで頬を殴りやがって。


顔はな、父さんにもぶたれたことないんだぞ。

頭には拳骨を何回か食らったことがあるけどな。


見下ろしてくる健太はギラついた眼を俺に向けて、低い声で唸った。


「おれはいらねぇや。古い関係も友達もお前も。過去なんていらない。だからおれはお前を潰す。過去を断ち切るために、お前を全力で潰してやる。田山圭太って男を、潰してやる」

「そっか。それがお前の答えか? ……じゃあ、友達として、お前を迎え撃ってやるよ。健太」


気丈に笑ってやる俺に、向こうはまた一発かましてくる。


あのなぁ健太。

ぶたれているのは俺なんだぜ、痛いのは俺。


んでもって、お前、自分で決めたんだろ? 過去を絶って俺を潰すって。


そう心に決めたなら、それを貫けばいい。

俺は俺の決意を貫いていこうと思うから。


だからそんな顔をするなって。

二度もぶたれてさ、痛い思いをしているのは俺なのに、ぶっているお前が辛そうな顔するなって。馬鹿健太。


俺はお前にどんなことを言われようとも、友達と言うよ。


絶交宣言、俺の中じゃ消散しちまったんだ。

悪いな、ごめんな、お前の覚悟を霧散するようなことしちまって。


お前はお前なりに、俺のことを思って絶交してくれたんだろう?

きっとお前の方が先に友達が敵のチームにいると知ったんだよな?


随分葛藤したんじゃないかと思う。


お前の性格を熟知している俺だから、きっと俺よりもずっと長くながく苦しんでいたんだろう。簡単に想像がついちまう。

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