青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
本当にごめんな。
お前が苦しんでいる間、俺は能天気に日々を過ごしていた。
何も知らず平々凡々と、ヨウの舎弟として充実過ぎる日々を過ごしていた。
でもな健太、お前との過去をなかったことにできるほどお前の関係は軽いものじゃなかったんだ。少なくとも俺の中では。
後悔なんてしていないよ、お前と友達になった日も、楽しくノリツッコミ三昧だった日々も、一番仲が良かった関係も。
ヴー、ヴー、ヴー。
おーっとお電話みたいだ。
ちょいタンマ、俺等、本来の仕事に戻らないといけないみたいだ。
あ、タンマなんてしてくれるわけないよな。
その顔からして。そいじゃお返しがてらに。
「ちょっと失礼シマーっ、ス!」
俺は投げ出していた右腕に力を入れて、健太の横っ腹に拳を入れた。ついでに邪魔だから健太の体を突き飛ばす。
これくらい許されるだろう?!
俺なんて二発も顔面にパンチっつーかビンタ食らったんだからな!
ついでに川に落とされた恨みはまだ根に持っているんだぜ!
あの後熱が出るわ、仲間内から寝返ったんじゃないかって疑念を抱かれるわ、大変だったんだからな!
ぜーんぶ、お前が悪い!
俺を川に落としたお前が悪いんだからな!
心中毒づきながら、俺は急いで健太と距離をとって電話に出る。
相手は勿論舎兄。
向こうは矢継ぎ早に俺に用件を告げてくる。
曰く、榊原チームの不良達数人が裏道を使って応援を呼ぶ行動に出たらしい。
ちょ、こっちに向かっているだって?! まっずいってそれ!
「ヨウ、俺とハジメ……今、日賀野チームとご一緒しているんだけど」
しかも、その内一人は副頭サマがいたりするんだけど。
途方に暮れている俺にヨウは電話向こうで素っ頓狂な声を上げた。
『……はあっ?! 今っ、ヤマトチームと一緒ってどういうことだ!』
「いやぁ、ちょ……向こうから姿を現してくれたみたいな? しかもそっちも、不良が来ているんだろ? ………さすがに俺等、大ピンチです。ヨウ」
なにぶん、見張り&情報役ペア、喧嘩できないもの同士なんで、このまま行けば確実フルボッコタイムが始まるかと。あ、複数だからリンチタイムか。
えへへっ、大勢でがやがやわいわいすると楽しいよな。超楽しみ……なわけないだろ!
リンチとか最悪のシナリオじゃないか!
俺のトラウマがまた一つ増える!
焦る俺に、『待ってろ!』ヨウは今すぐそっちに行くと言って電話を切ってきた。
あ、おい、ヨウ……っ、あ~~~っ! ヨウはそっちにいないとダメだろうにっ……俺等が弱いばっかりにっ、ドッチクショウ!
自分に苛立ちを募らせながら携帯をポケットに捻り込むと、
「ハジメ!」
ホシと対立している仲間に声音を向けた。
「此処にヨウが来る! 緊急事態で、その他オマケの不良も来るらしい! ちょい、とんでも事態になっているけど、とにもかくにもヨウが来るまで持たせろ!」
「リョーカイ。五分弱持てばいい方だよね。おっと!」
ホシの蹴りを避けているハジメに、
「そんなところ」
俺は引き攣り笑いを浮かべて目前を睨んだ。
生憎俺の最大の武器の自転車は倒れちまって、道端に放置されている。
起こしに行ってやりたいんだけど、どーも向こうがそれを許してくれなさそうだしな。
闘争心剥き出しの級友、それにやっと笑いの発作が治まったのか、またクールな雰囲気を取り巻いて級友と肩を並べてくる副頭。
どうぞどうぞまだ笑っておいて欲しかったんだけどな。
アウチ、田山圭太はラスボス一歩手前の大ボスと、俺とどっこいどっこいの実力戦闘員を相手にしないといけないのか。