青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
無理だこれ。敗北フラグ大だぜ。
なにせ俺、防具も武器もなしの丸腰で二人を相手にしないといけないんだぜ?
ぜってぇ負け確実だろ!
……んでも、やる時はやらないとな。
「せめて一人ずつ、じゃ駄目ですかね? 完全に俺の不利ですから? ご慈悲のほどをお願いしたいんですけど?」
一応バトルスタイルを要望してみる。
相手が受け入れてくれるかどうか分からないけど、此処はフェアでいきたいしな?
すり足で距離を置きながら、俺はご慈悲のほどを頼んでみた。
すると健太が間も置かず、俺に向かって駆けて来る。
ちょちょちょっ、おまっ、バトルスタイルの要請にさえも受け答えしてくれないってか?
ひっでぇよな! そんなに俺を潰したいってか?
……受けて立つっつーんだ。
こっちとら、お前のせいで散々な目に遭ったんだからな。
川の件とか、超恨み持っているんだからな。
友達に川どっぼーんなんてしていいのか? え? 健太さんよ!
打ち付けた体に鞭打って、右に体を傾けると勢いづいた拳を受け流して膝で向こうの鳩尾辺りを突く。
舎兄の喧嘩を傍で見てきた俺だ。
そんなに喧嘩ができなくとも、どうすればどう相手に攻撃できるのかの動きは見極められるようになった。
だけど向こうも喧嘩っつー修羅場を掻い潜ってきた兵(つわもの)。
走る痛みに顔を顰めつつも、バネにように足を弾ませて横っ腹を蹴っ飛ばしてくる。相打ちってところかよ。
お互いに距離を置くため後退、今度は俺が先制攻撃を仕掛ける。
相手の懐に入ろうと飛躍。
裏拳を入れようと構えた右手を受け止められたから、俺は飛んでくる左手の拳を受け止めて、相手にガン付けた。
見慣れた顔、でも見慣れない髪の色を持つ不良は「この調子乗り」小さな悪口(あっこう)を吐いてきた。
「調子のイイコトばっか言いやがって……今が大切なくせに……過去なんて捨てろっつーんだ」
辛酸を噛み締めるような顔を作ってくる健太に、「残念」俺は意地悪く笑みを浮かべてやる。
「過去もひっくるめて今が大切なもので」
俺ってイイコト言うよな、おどけて見せたら向こうの癪に障ったみたい。
「ざけるな」
鋭い眼光で俺を睨んできた。
ごめんなさい、本当のことを言っちゃって。
俺ってオトモダチ思いだから、んでもって我が儘だから、ヨウ達も大事だけど健太も大事なんだよ。
主に後者の理由で俺はお前を捨てきれない。OK? お分かり?
空気を読んでくれているのか、副頭さんは俺等の間に入って仲間に手を貸そうとする素振りは見せない。
ハジメやホシの喧嘩にも手を貸そうとしない。
ただ腕を組んで、商店街の方角に焦点を定めている。
そろそろヨウが来てくれてもおかしくない。
それとも先に榊原チームの不良が来るか。
頼む、ヨウ……急いでくれ。
俺の願いも虚しく、向こうから見えて来たのは見慣れない不良達。
協定を結んでいる日賀野達に援軍を要請しようって奴等だ。
チックショウ、先にあいつ等かよ。
止めたいけどさ、目前の元ジミニャーノが退いてくれねぇんだよ。
しかも、ちょっと余所見をした隙を突かれて足払いされた俺は、無様にその場に倒れた。
素早く覆い被さって、拳を振り下ろしてくる健太の攻撃を受け止めた俺は凄いと思うよ。マジで。
「クソ……退け、健太。俺には別にお仕事あるんだよ。お前バッカに構ってらんねぇ」
「――言っただろ。お前はおれが潰すって。圭太、いやケイ……お前は向こうの頭の舎弟でチームの“足”的存在。お前を潰せば、こっちが幾分優勢になるだろ?」