青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
――とうとう、ここまできた。
嗚呼、やっと終わらせることができる。
大尊敬している舎兄に背を向けたあの日から望んでいた“終わり”。
自分の同志と共に決めていた“終わり”がようやく目前に……長かった。
とてもとても長かった。
一ヶ月という月日がただただ長かった。
風を切るようにチャリで現場に戻った蓮はそれを乗り捨て、急いで地を蹴る。
さあ、総仕上げだ。最後の仕事をしなければ。
自分は許されぬことを、仲間や舎兄にしてしまった。
許してもらおうなんて一抹も思わない。
己の弱さと罪を認め、それに対して責任を負うつもりだ。
けれどその前に、最後の仕事を。裏切り行為をしたあの日からずっと心に決めていたことを。
戻って来た蓮に何処からともなく視線が飛んでくる。
それは“蓮の同志”である榊原チームのもの。
彼等に成功した旨を伝えるために、蓮は指で輪を作ると迷わずそれを銜えて甲高い音を鳴らした。
三回、指笛を鳴らすことにより、浅倉チームと対峙していた同志達の意識が仲間内に向けられる。
異変に気付いたのはかつての仲間である涼だ。
空気の違和感に眉根を寄せている。
そんな彼と目が合うが、振り払うように口から指を出すと蓮は大声で同志に伝えた。
「潰せっ、作戦は成功した! 榊原チームと協定チームを一人残らず、潰せ! 和彦さんを、浅倉チームを勝者にしろ――! 俺達は奴等とここで終わるんだ!」
するとどうだろう。
あれほど浅倉チームと対峙していた元チームメート達が、
「合図だ。潰せ!」
次から次に己のチームを潰すために動き出す。
これには現浅倉チームならびに協定の荒川チームが戸惑いを見せる。
敵だと思っていた不良が、仲間を潰しに掛かっているのだから。
同志達が榊原チームや協定チームに敵意を見せ、かつての仲間を助けている。
ああ、夢にまでみた光景だと蓮は顔を微かに歪めた。
先程、膝蹴りをお見舞いした桔平が視界に入る。
未だに腹部を押さえている彼は、苦戦を強いられているようだった。
すかさず蓮は桔平を助けるために背後から不良の背に肘を入れ、その場で引き倒す。
「蓮っ、なんで」
彼の疑問に答える間もなく、蓮は向こうで苦戦を強いられている舎兄に向かって走る。
重量のある鉄パイプを振り回しているリーダーと、素手で対抗する舎兄の下へ急げ。
報告をしなければいけないのだ。
最後の仕事のひとつとして、リーダーに報告を。
「チッ、鉄パイプは卑怯だろーよッ?!!」
榊原に気を取られていたせいで、舎兄は背後から忍び寄ってくる不良の鉄パイプに気付かなかったようだ。
「二人掛かりかよ」
横っ腹をやられ浅倉はその場で膝をつく。
やられた患部を押さえて顔を顰めた。
同時に隙を突いた前衛後衛が鉄パイプを振り下ろした。
響く鉄パイプの音。
飛び散る汗と鮮血。
そして息を呑む声。
二本の凶器を頭や肩や腕で受け止めたために、蓮の視界がぶれる。
「れ、ん? おめぇ」
舎兄の声が遠い。
それでも蓮は気丈に足を踏ん張り、こめかみから滴る血を拭うこともせず、また乱れた呼吸を整えることもせず、右の腕で受け止めた鉄パイプを引っ掴み、後衛を任されていた不良の鳩尾を突く。
次いで前衛を受け持っていたリーダーにシニカルな笑みを向けて、報告。
「残念だったな、榊原。日賀野達との協定は解消してきた。援軍は来ない」
「……ンだと?」
「これが俺達の末路だ! 終わりだっ、榊原っ! お前は俺達と終わるんだよ! 一緒に堕ちようぜ、地獄にさ」
激昂する榊原が鉄パイプで蓮の体を薙ぎ払ったのはその直後のこと。構えていなかった蓮が地面に叩き付けられる。