青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



死んでもヤマトの舎弟はご免である。

リーダーとして慕ってはいるが、舎兄弟とはまったくの別件である。


「まあ、ノリの良い奴は好きだけどな。プレインボーイもノリ良くて面白かったし……もしかしてテメェもノリが良かったりな?」


ギクリ。

ケンはたらたらと少量の汗を流した。


こう見えてケンは高校に進学してからというものの、調子ノリの部分を封印して日々を過ごしてきた。

未だ誰にもその面を見せたことはなかったのだ。


つるんでいる面子が面子だ。

なるべく普通の平々凡々不良でいこうと思っているのだが……これは不味い。


「そういやプレインボーイと随分仲が良かったと聞いたが、中学時代はどういう感じだったんだ?」

「(え゛、過去なんて知ったこっちゃねえって、数分前に言っていたのに聞いちゃうんですか。聞いちゃうんですか、人の過去!)」


心中で毒づきながらも、ケンは平常心を保ちつつニッコリと笑顔を作った。


「どういう感じと言われても、フツーでしたよ。一緒に駄弁る仲だったと言いますか。名前が山田と田山、健太と圭太で似ていたもんですから、仲良くなったと言いますか」


「フーン。確かにテメェ等、並びは違うが名前の漢字、一文字違いだよな」



「そうなんです。それなんです。だからおれ等、コンビ名がありまして。

苗字を掛け合わせて“山田山(やまださん)”というコンビ名で貫いていたんです。

だけど、あいつは“田山田(たやまだ)”というコンビ名を付けてっ、山田の方が苗字的に多いんだから“山田山”がイイっておれは言ったのに。

あいつは頑なに“田山田”を貫いて……ちょっと語らしていただきますが、ヤマトさん、日本は大衆国です! 多数決国家です! 赤信号、皆で渡れば怖くない精神を持っています! 王道を貫くのならば、山田の名を先に持ってきてこそだと思いませんか?!


あんのバカヤロウは山田の人口率を無視して、田山を先に持ってくるんですよ。


あああっ、山田人口率を舐めてやがる!
そりゃ田中や佐藤や鈴木には負けるけど、山田も負けてナーイ! おれは断固として“山田山”だと言い張る!

ああ言い張るとも、おれはどんなことがあっても“山田山”を貫くんだ。

山田健太16歳、好きなタイプの女性は清楚で料理の上手い女! 巨乳より貧乳派! 地味出身、現在不良、本日も“山田山”を貫くことを高らかに宣言!」


ふーっ、久々に素を出せた気がする。すっごくスッキリした。



いやぁ、いつもいつもいつも、素を出さぬよう頑張っていたから「ぷはははっ! ケン、お前の素かそりゃ?!」……オーマイゴット、やっちまったんだぜ。


いつの間にか立ち上がって熱弁していたケンは、


「ちょっとノっただけです」


気恥ずかしく思いながら腰を下ろす。


中学時代の話を出されたものだから、ついついあの頃の素が出てしまった。


隣でヒィヒィ笑い転げている我等がリーダーは腹を抱えて、


「タンマだタンマ!」


発作を抑えようと努力。


「なっ、なあ。やっぱ俺の舎弟になるべきだっ。さっすがプレインボーイとつるんでいただけあるっ、クククッ。決めた、俺はお前を」

「いやいやいや! おれなんて面白くもなんともないですよ! い、今までどおり圭太……じゃない、ケイを狙っておいて下さい」


「遠慮するなって」


にやにやするヤマトの視線に、


「ケイみたいにチャリの腕とか土地勘とかないですし!」


ケンはじわりじわり追い詰められている気分だった。

あああっ、なんでこんなことになった。

いや、調子に乗った自分が悪いのだが、それにしたってこの不運と言ったら!


(圭太っ、お前のせいだぞっ! お前がさっさとヤマトさんの舎弟にならないから……こんのバッキャロー!)


理不尽な理由でケイのせいにするケンだった。

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