青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
◇ ◇ ◇
「――クシュンっ、ヘックシュンっ、ヘーックシュン! ……鼻風邪でもひいたかな?」
さっきからくしゃみが止まらない。
でも寒気も何も感じないし、喉の痛みも無い。風邪ではなさそうだ。
ということは、さては誰かが俺の噂をしているな?
どんな噂をされているかどうかはともかく、俺も随分モテるな。
多分悪い意味で噂されているに違いないんだけどさ。
女の子に黄色い悲鳴を上げられながら噂をされている、ということだけはないだろう。経験上。
ズルッと洟を啜り鼻下を軽く指で擦る俺は、
「噂されるようなことあったっけ?」
寧ろあり過ぎて思い当たる節が見つからない。
しきりに首を傾げていた。
大した噂じゃないことを願いつつ俺は現実に思考を戻す。
現在進行形で俺はいつものたむろ場(=倉庫)で集会に顔を出している。
集会というよりも、各々状況を報告しあっている感じだ。
先日、晴れて浅倉チームは『エリア戦争』の勝者になったのだけれど、こっちも随分手痛くやられた。
それだけならまだしも、回の喧嘩の後味の悪さといったら……勝ったというのにちっとも喜べない。
浅倉チームにいたっては沈鬱なムード一色だ。皆、お通夜に出る時のような顔をしている。
また此処には敵対していた榊原チーム、正しくは元浅倉チームだった不良も何人か足を運んでいる。
全員が揃っているわけではないけれど皆、浅倉さんに背中を向けた手腕のある不良達だった。
彼等から“真相”を聴くために浅倉さんが自ら頭を下げて呼んだんだ。
――真相。
それは榊原チームに寝返った彼等の真実。彼等はどうしても身を置かなければならない深い事情があった。
曰く、内紛を起こした榊原は地位と名誉、そして日頃から浅倉さんのチームへの対応に不服・不満を持っていたらしく(折角実力のある不良が集っているのに名を挙げようとしなかったリーダーに鬱憤が溜まっていたんだろう)、ついに実力行使に出たらしい。
主犯はまず自分と同じように浅倉さんに不満を持っている不良に声を掛けた。
それだけじゃ数が足らないから、次に実力のある不良達を脅す。
これは浅倉さんの戦力を弱めるための行為でもあったようで、ある奴は友達を、ある奴は兄弟を、誰にも知られたくない秘密を握られた奴もいれば、榊原に賛同した不良達にリンチ紛いなことをされて強制的にこっちに来るよう強いられた奴もいる。
浅倉さんの知らないところで彼等は苦境に立たされ、榊原に屈服、本意じゃないチームの抜け方をした。
浅倉さんの舎弟、蓮さんもその一人。
彼等の話によると蓮さんは仲間内がリンチ紛いなことをされている発見。
すかさず止めに入ろうとしたんだけど、人数が多過ぎて止め切れず、弱っている仲間を人質にチームを抜けてこっち側に入るよう強要された。
浅倉さんの右腕であり、彼自身も少林寺拳法経験者だということもあって、最初から蓮さんは引き抜きの対象として見られていた。
なにより蓮さんは浅倉さんの舎弟。
誰よりも浅倉さんに精神的苦痛を与えられる人物でもあった。
浅倉さんを慕っていた蓮さんにとってそれは苦痛で仕方が無かっただろうに、彼は仲間を助けるために条件を呑んだ。
真実を伏せて浅倉さんの下を去るしかなかったんだ。
だけど蓮さんの心は常に浅倉さんにあった。
彼は思っていたそうだ。
脅しと強制で出来上がった寄せ集めチームなんていつかはガタがやって来る。
それを見越していた蓮さんは、水面下で同志を集めて自分達が“本当のリーダー”に対してできる最後の仕事をしようと提案。
『和彦さんを……残してきた向こうの仲間を勝たせよう。“エリア戦争”の勝者にするんだ。榊原チームを俺等で終わらせるんだ。それが俺等にできる唯一の詫びじゃないか』