青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
ちなみに俺達は邪魔にならぬよう倉庫の端に身を置いて様子を窺っている。
此処は俺達のたむろ場だけどな……空気は読むよ。うん。今はツッコまないよ。うん。
向こうには浅倉さんや涼さん、桔平さん、俺等と共に闘った浅倉チームメートの戦友(喧友?)に、榊原チームの不良(でも心は浅倉さん達寄り)。
行動の中心人物になった蓮さんの姿はそこにはない。
負傷した彼は入院までいたってないんだけど頭を三針、右腕の骨にもヒビが入って病院通いになったらしい。
それに蓮さんは浅倉さん達に呼ばれようと顔を出すつもりはないようだ。
実は俺、さっき向こうチームの不良達の雑談を耳にしちまったんだ。
なんでも蓮さんは仲間内にその心境を明かしているようで、合わす顔がないと苦言しているらしい。
気持ちは痛いほど分かる。
もしも俺が彼だったら、申し訳のなさあまりに二度と姿を現すことはできないと思う。
仲間に背を向ける行為は、それだけの罪に当たるんだ。
俺も仲間に背を向けようしたことがあるから、彼の気持ちはよく分かる。
真実を聞いて、どれほど時間が経っただろう。
誰一人言葉を発することもなく向こうのチームは皆、ダンマリとジベタリングをしている。
勝者が敗者を揶揄することもなければ、敗者が勝者に負け惜しみを言うこともない。
ただただ真実を知る側、知られる側、双方の間に深い溝ができていた。
皆、空気の重さに圧死しそうな顔をしている。
「こりゃあ、俺の責任だな。リーダーとして、仲間のことをちゃんと見ていなかった。俺にすべての責任がある」
ふと倉庫内に響く浅倉さんの声音。
静寂を裂くように膝を叩いて腰を上げた浅倉さんは自分のせいだと責を素直に受け入れ、まず共に闘った仲間達に頭を下げた。
そして今度はやむを得なく向こうのチームに行ってしまった仲間達にも頭を下げた。リーダーとして。
両者驚く浅倉さんの応対だったけど、
「榊原の奴にも悪いことしたな……」
浅倉さんは沈鬱な表情で言葉を重ねる。
「前々からあいつの不満はちょいちょい聞いていた。けど、ただ聞くだけでチームの意見として取り入れなかった。結果がこれだ。あいつの行き過ぎた暴走は俺の責任でもある。おめぇ達には辛ぇ思いさせたな。本当に悪く思っている」
暴動を起こして、チームに亀裂を入れたのは榊原。
だけどそれは榊原一人のせいじゃなく、自分の責務でもあると浅倉さんは強く主張。
そして皆に言う。
お前等の責任じゃない……と。
勝者にも敗者にも同じ言葉を手向けた。
仲間同士で傷付け合わせた契機は自分にあるんだって……強く訴えて謝罪をしていた。
「けど悔いたって一緒だ」
何も生まれやしないし、前にも進めない。後ろに下がるばっかだ。浅倉さんは謝罪を止めて、仲間達に綻ぶ。
「俺について来てくれた奴等には感謝している。
けど、水面下で俺等のために働いてくれた……おめぇ等にも感謝している。俺はもう一度、ついて来てくれた仲間とおめぇ等、両方の仲間でありたい。今度は自覚を持ってリーダーをしていこうと思う。できることならやり直しを希望したい」
浅倉さんの一句一句が、まるで重い空気を取り除いているようにさえ思える。
「エリア戦争の勝者になった俺達は、『廃墟の住処』をテリトリーにするわけだが、今のままじゃはっきり言って人手不足だ。今回は荒川の手を借りてここまできたわけだが……」
軽くなっていく空気の中、
「いつまでも荒川達に頼っていてもなぁ」
迷惑を掛けるだけだと苦笑い。
『廃墟の住処』は己の陣地にしたい土地として有名な場所。
もし次に狙われでもたら、また苦戦を強いられてしまう。
最悪大負けして苦労して手に入れたテリトリーを奪われかねない。それは回避したい。
「勿論、おめぇ等の意志に任せるけどなぁ」
強要するつもりはない。
けれど、自分について来てくれるなら、もう一度……今度は水面下じゃなくて堂々と仲間として自分に手を貸して欲しい。
浅倉さんは元榊原チームや今の仲間達に願い申し出て、「どうだ?」意志を確認。
独断じゃなく、皆の意見も尊重することをちゃんと忘れていない。浅倉さんなりの成長だろう。