青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
さてと、馬鹿も程ほどにして話を戻す。
向こうの舎兄弟に俺等から助言をすることはできなかった。
安易に案を出せるわけでもないし、部外者が口出しをしても……な? 本当は何か打破案を出してやりたかったけど、俺達自身も良策を思いつくことができなかったんだ。
結局その時は何も助言できずに、話が終わってしまった。
俺達に出来ることは向こうのチームが上手くいくように、と……ただただ成り行きを見守ってやることぐらいだった。
あくる日。
『エリア戦争』後の対応と協定について簡単に話し合うために、俺と舎兄と副頭は向こうチームのたむろ場に赴いていた。
別に俺はついて来なくても良かったんだろうけど……ほら、舎兄が行くなら舎弟も行かなきゃいけないみたいだし(そんなルール誰が決めたんだよ!)。
できれば留守番したかったけど、モトが煩いしな。
交差点四つ角の某ビル二階ビリヤード場を訪れるために、そのビルに入り、狭い階段を上ると歩調を変えないままビリヤード場の扉を開けてお邪魔します。
同時に、「おい待てって蓮!」「話だけでも聞いて下さい!」「蓮!」大声、怒号、制止、様々な声が一室を満たしていた。
どうやら、荒川チームは超バッドタイミング極まりない時に訪れてしまったらしい。
等間隔に並列しているビリヤード台の向こうで帰ろうとしている蓮さんと、それを止めに入る不良達が目に映った。見たまんま修羅場だ。
帰ろうと躍起になっている蓮さんの姿は痛々しく、頭には包帯、左頬にはガーゼ、右手にはギブスが嵌められている。全治三ヶ月以上の怪我だろう。
大騒ぎになっている向こうの話を耳にする限り、榊原チームに表向き寝返った仲間達が蓮さんを強制的に此処まで連れて来たようだ。
塞ぎ込んでいる蓮さんを見ていられなかったのだろう。
せめて浅倉さんと話だけでもするよう促している。
浅倉さん自身も話を聞いてほしい一心で、帰ろうとしている蓮さんを止めていた。
出入り口に向かう蓮さんの前に回って、両肩を掴んで、まずは落ち着けと優しく言葉を掛けている。
だけど向こうは気持ちが昂ぶっているのか、「退け!」話すことなんてないのだと手を払って舎兄を押し退けていた。
「蓮っ、ンの頑固者! 話を聞けって言っているだろ! こっちはやり直したいっつってるんだよ!」
こっちに向かって来る蓮さんに、桔平さんが声音を張る。
「勝手にすればいい」
冷たく返す彼の言葉には茨が纏っていた。
元仲間達を再び“浅倉チーム”に入れようが、彼等がチームに入ろうが自分には関係ない。
好きにすれば良いのだと肩を竦め“自分は戻る気などない”と言葉を足す。
「話もしないで決めつけてんじゃねえぞ阿呆が。黙って去ることが美なのか? あ? ならその考えに焼き入れてやらぁ!」
プッツンいった桔平さんが口汚く表に出ろと喧嘩を売る。
「お、お前がキレてどうするんだよ」
仲間内からツッコまれると、
「るっせぇー!」
蓮をぶっ飛ばさないと気がすまんなんぞと叫んでいた。仲間を思うがゆえの感情だろう。
隙を見た蓮さんが早足で俺達の脇をすり抜ける。
「あ、蓮!」
涼さんが呼び止めても聞く耳を持たず、部屋から飛び出してしまった。
彼の表情を盗み見てしまった俺は言葉を失ってしまう。
切迫した面持ちの中に確かな雨模様が宿っていたから。
「行っちまった。また逃げられたか。仕方がねぇ。俺、追い駆けて来るから。おめぇ等は……荒川達じゃねえか。ダサイところ見せちまったな」
浅倉さんが俺等に気付いて声を掛けてくる。
ヨウやシズが応対している中、俺は得体のしれない何かを感じていた。親近感を覚えていた。なにより気持ちに急かされていた。
本能が言っている。
このままじゃいつまで経っても、チームは上手くいかない。時間だけが刻一刻と過ぎていく、と。
蓮さんがみんなの言葉を拒絶している限り、きっと関係は平行線を辿る。
それじゃあ駄目なんだ。
蓮さんは此処で逃げちゃ駄目なんだ。
でも蓮さんは逃げるだけの理由を持っている。きっと誰にも吐けない感情に怯えている。
どうしてかな、気持ちが痛いほど分かる。分かっちまうんだ。