青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「あ、おいケイ! てめぇまで何処に行くんだよ!」
ヨウの呼び止めを背に受けながら、俺は感情のままに蓮さんの後を追い駆けた。
浅倉さんよりも早く追いついて話をしないといけないと思ったんだ。
二段越しに段を跨いで、一気に階段を駆け下りると、負傷した赤髪不良の姿を探す。
残念なことに今日の俺は丸腰。
愛チャリは自分達のたむろ場に置いてきたから追い駆ける手段は俺の足以外ない。
「どっちだ」
大通りを見渡し、蓮さんの姿を探す。
思いのほか、彼はすぐに見つかった。目立つ髪の色とギブスのおかげだろう。
重い足取りで雑踏に紛れる彼の背を追い駆け、追い抜き、前に回る。
ぼんやりと宙を見つめていた蓮さんと視線がかち合い、
「あ?」
なんだよお前と言わんばかりに睨まれてしまった。が、急いでいる俺には関係ない。
「俺と来て下さい。早くしないと浅倉さんが来ます」
「はっ? おまっ、なん……聞けよおい!」
腕を引っ掴みんで駆け出す俺に蓮さんが大きく動揺。
それでも律儀に足だけは動かしてくれるため、こっちも誘導しやすい。
通行人という障害物を器用に避けながら、俺は困惑している蓮さんとひたすら走る。浅倉さん達が簡単に見つけることのできない場所まで。
とある丁字路の信号前で足を止める。
揃って上がった息を整えていると、
「お前。まじなんなの?」
蓮さんから訝しげに視線を流された。
まともに喋ったことのない彼を、後先考えずに誘導してしまった手前、俺は言い訳に悩んだ。
親しい仲ならまだしも俺達はほぼ初対面。
下手なことを言えば、俺は一発食らわせられるだろう。
しかーしおまえっ、まじなんなの? と言われたら、答えてあげるが世のため。人のため。俺のため! 腕を組み、俺は唸り声をあげて彼に返答した。
「へい、カノジョ。俺と遊ばない? みたいなノリです」
「は?」
「つまり、その、ナンパしに来ました」
シーンと沈黙が俺達の間に下りる。
いや、他に言い分が見つからなかったのだからしょうがない。うん、痛いことを言った自覚はあるよ。
だからそんな痛い目で俺を見ないで下さい、蓮さん。俺だって人間、ハートを持ってますんで傷付きます。
「どーせ暇でしょう? いいじゃないですか。俺にナンパされて下さいよ。これでも初ナンパなんですよ、俺?」
微妙な空気を砕くように俺はニッと相手に笑いかけ、
「田山圭太。ケイでいいですから」
自己紹介をする。
すると圧倒されていた蓮さんが小さく噴き出した。
「初ナンパが俺か?」
しかも男をナンパだなんて、お前の趣味わっかんねぇ。
おどけてくれる彼の笑顔は素なのだろう。俺も笑みを返して彼と共に笑った。