青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
さてと、ナンパした蓮さんを連れて俺が向かった場所は駅広場。
その途中で俺お勧めの三丁目四つ角交差点前にあるたい焼き屋でたい焼きを購入し、目的地に設置されいたベンチに腰を下ろす。
べつに駅広場でなくても、静かに話せる場所であればどこでも良かった。
誰にも邪魔されず、負傷者の体が休める場所があれば本当にどこでも良かった。
「どうぞ」
ナンパに乗ってくれた不良にたい焼きを差し出すと、
「ヘビーだな」
文句が返ってきた。
甘味は心の癒しだと思うんだけど。後でリバースをしてもいいから、今は食べてもらわないと俺がこれを処理しなければいけない!
幸い、蓮さんは受け取ってくれた。
「あ、うまい」
大層なご感想をちょうだいし、俺としては大満足である。
既に蓮さんは俺が荒川庸一の舎弟だってことを知っている。
『エリア戦争』の時に知られたんだと思っていたけど、それ以前から知っていたらしい。
「異色の舎兄弟として有名だからな」
蓮さんは俺にそう語ってくれた。
随分俺も名前が売れてきたもんだよ。
ほんと嬉しいやら迷惑なことやら何やら……複雑な心境だ。
俺のナンパに乗ってくれた清瀬蓮は基本的に、誰とでも気さくに喋れるタイプなのだと会話をしていて思った。
今は仲間内と話し辛く俺が彼のチームと接する姿を見る限り、表情は能面が多いけれど、俺個人と話す間は表情が柔らかい。私生活では表情豊かな人なんだろうな。
また意外も意外。
蓮さんは積極的に俺と会話をしてくれた。
それはきっと蓮さんの気持ちの表れだろう。落ち込んでいる時ほど喋って発散したいアレなんだと俺は推測。
こっちが話を切り出さずとも、何処に住んでいるのか、ゲームは好きか、喧嘩にはいつもチャリンコなのか、等など話を振ってきてくれる。
「どうして舎兄弟になったんだ?」
あれほど文句を言っていたたい焼きをぺろっと平らげ、蓮さんが舎弟の契機を聞いてくる。
たい焼きの腹の部分を齧っていた俺は、あんこを一舐めして返事する。
「大した理由はありません。舎兄が俺を面白いと思ったから、半ば無理やり舎兄弟を結んだ。それだけのことです。蓮さんはどうして浅倉さんの舎弟に?」
いきなり浅倉さんの話題を振るのはまずいかな、と思ったけれど彼は気にする素振りもなくミネラルウォーターで喉を潤す。
「同じような理由かなぁ。和彦さんが『舎兄弟ってどんなもんかなぁ』と言い出してさ。丁度、俺と話していたから成り行きで」
「なんだ、俺と似た成り行きだったんですね」
「そう、最初は成り行きも成り行き。何を言っているんだこの人? 内心で驚きながらも、向こうが決めちまったことだから。仕方がなしにな」
けど、いつの間にか大尊敬する舎兄になっていったんだと蓮さんは柔和な笑顔を見せる。
俺はそれを見て、
「尊敬できるとは凄いですね」
褒めを口にした。
俺とヨウは舎兄弟でありながら、まあ……尊敬とかそういう気持ちはなく、友達として今の関係を保っている。兄分弟分の関係じゃないってことだ。