青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



馬鹿みたいにゲーセンを見上げていたら、ヨウに「まだかよ」と文句を言われた。

急いで鍵を掛けると、俺は「ワルイワルイ」愛想笑いを浮かべながらヨウの元に駆け寄る。


「チンタラしてんじゃねーよ」


悪態ついてくるヨウに、俺は何度も明るく詫びながら内心メチャビビッていた。

だって機嫌を損ねたらグーパンチが飛んできそう。

ビビらねぇって方が無理。

話題を逸らす為に、俺はヨウに質問をしてみることにした。

「なあ、ワタルさんやヨウのダチってゲーセンの何処にいるんだ?」

「んー。そうだな。格ゲーしているんだったら二階が多いけど、やっぱ三階だろうな」


「へ、へぇー……三階」


やっぱ三階きたか。不良の溜まり場説の流れている、三階きちゃったか。

ヨウと一緒にゲーセンに入ると想像以上にBGMが煩かった。

UFOキャッチャーから流れるBGMなのか、格ゲーから流れるBGMなのか、スロットマシーンから流れるBGMなのか、はたまたゲーセン全体に流れているBGMなのか。

どれがどのBGMか判断がつかないほど店内は煩い。

それに混じって女子高生のはしゃぎ声が聞こえてくるもんだから、耳が麻痺しそう。


しかも店内は妙に蒸し暑い。


ちゃんと温度調節しているのか? 疑問に思うくらい蒸し暑い。

騒音のプチサウナに放り込まれたみたいだ。


そう感じるのは俺だけだろうか。


行き慣れているヨウは、速足でエスカレータへと向かっていた。

曰く、階段はダルイらしい。

気持ちは分からないでもないけど、是非階段で行きたかった。

ゆっくり階段を使って三階に行きたかった。心の準備とか色々出来るから。


憂鬱な気持ちを振り払えないまま俺もヨウの後を追ってエスカレーターに乗る。


機械的に流れていくエスカレータは、無慈悲に俺達を一階から二階。二階から三階へと運んでいく。

エスカレータよ、故障でもして止まってしまえ。

思っても無意味なことは分かっている。



心の準備も碌に出来ず、俺の視界は三階のフロアが飛び込んでくる。



どんな奴等がいるんだろう?

徐々に顔を出す三階のフロアを覗き込んで大後悔。

想像していたけど、想像していた以上に嫌な光景が広がっていた。


ヨウみたいに髪を染めている奴等がいる。見るからに不良。チャラチャラ。

俺みたいな奴が来るなんて御門違いだって雰囲気。

不良のメンバーには女の子もいた。

いかにもギャルですって服装ばっか。女の子も俺にとっちゃ恐いのなんのって恐いんだよ! だって不良だから!


不良の方々、ゲームをしているっていうより駄弁っていたみたいだ。

スロットマシーンや格ゲーに備えられている椅子に座って駄弁っている。

中にはエアホッケーの台に座っている奴もいた。

そりゃマナーとしてどうかと思うんだけど、なんて口が裂けてもツッコめない。恐いから。


三階のフロアに足をつけたヨウは、片手を上げて仲間に挨拶をしていた。ヨウに気付いて仲間も挨拶を交わしている。

ヨウの後について行きながら、俺はなるべく目立たないようフロアの隅にでも行こうと思ったんだけど、その前に背後にナニかを感じて足を止めた。


喧嘩等々厄介事に巻き込まれないよう生きてきた地味日陰凡人は、こういう時に能力を発揮する。


これはそう、違和感というか、殺気というか、俺の身に降りかかるナニかだ!


反射的にその場から逃げるように離れた。


すると短く空気が切れる音が耳元で聞こえた。

サッと振り返れば、金髪の不良らしき男が俺に向かって……突っ込んでくる!


つまり攻撃を仕掛けられた! ちょ、なんで?!




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