青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




響子さんに言われた受け売り台詞だけど、今の蓮さんにはピッタリだと思う。


言葉で蓮さんの悩みを一掃してやると「能天気な奴」彼の口から笑声が零れた。


それは褒め言葉かな? 蓮さん。


つられて笑声を上げる俺は視界の端に映った人影に目じりを下げ、


「ほら。貴方の仲間は放っておいてくれない」


首を捻って相手を確認する。

片側二車線を挟んで向こう側の歩道に駆けている不良が一匹。


俺達の姿を見るや、「そこを動くなよくらぁ!」怒声を張って車が行き交っているのにも関わらず、浅倉さんが無理やり渡ってくる。


「マジかよ」


蓮さんは驚きを通り越して呆れているようだ。


「普通ここまで探し回るか?」


嘆息する彼に大笑いし、「愛されていますね!」揶揄を飛ばしてやる。


「逃げなくていいんですか?」


手摺に凭れる蓮さんを小突くと、「それも失せた」逃げるだけ相手を焚きつかせるだけだと言って嘆きを口にした。


車にクラクションを鳴らされまくっている浅倉さんが、大慌てで此方側の歩道まで渡り終える。


勢い余った彼が段差に躓いてずっこけると、見ていられなかったのだろう。


蓮さんが彼に歩んで負傷していない手を伸ばした。

やや驚きを見せるものの、浅倉さんはしっかり蓮さんの手を取って立ち上がる。

「サンキュ」

舎兄の言葉を右から左に流し、

「しつこい人だ」

毒づいて蓮さんは再び手すりに腕を置く。

やっぱり彼は舎兄の浅倉さんを拒絶していた。


表情も体の筋肉も強張らせている。


「おい蓮。ケリつけっぞ。俺達のこのクソッタレな関係に」


何を思ったのか浅倉さんがケリをつけたいと申し出てくる。

驚く俺を余所に、自分に勝てばお前を諦めてやると浅倉さん。

自分に負ければ言うことを聞いてもらうと条件を叩きつけてきた。


彼にはきっと考えがあるのだろう。負傷者に対してタイマンを張りたいと主張。


蓮さんは息を詰めて、瞼を伏せてしまった。


舎兄から逃げているのか、それとも思うことがあるのか、傍観者の俺には分からない。

夕風を頬に晒していた蓮さんが瞼を持ち上げる。川面に視線を落とし、キュッと目を細めた。


口を閉ざしている彼が承諾をしたのは間もなくのことだった。


俺は遠ざかる二人の背を見送る。

追い駆けようとは思わなかった。

水を差すような野暮なことはしない。彼等の問題は二人だけで解決するべきだろうから。


「アイデ!」


暫く夕風と戯れていると、背後から頭を叩かれた。


後頭部を押さえて振り返れば、


「テメェって奴は」


舎弟を探しに来てくれたイケメン不良の姿。
勝手に飛び出すなと文句をぶつけてくる兄貴に微笑む。

ほら、俺の兄貴も放っておいてくれない。俺が何処かへ行くと必ず探しに来てくれる。

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