青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
カラオケで一頻り歌った後はファミレスで夕飯タイム。
人数が人数なだけに全員が一つの席に座ることはできなかったから、ボックス席を二つ陣取って人さまのメーワクにならない程度に盛り上がっていた。
不良さんでもな、ある程度のマナーは守るんだぜ?
特に響子さんとかわりとマナーに煩い。
はっちゃけそうになるワタルさんのストッパーを買って出てくれている。
おかげで平和に食事を堪能。
ドリンクバーを頼んでいるから、何度か席を立ったり座ったりはするけど、今のところ平和に飯が食えている。
他愛もない話を交えながら二テーブルで悠々と飯を食っていると、
「おかわりいりますか?」
ココロが自分のテーブルの面子にドリンクを持って来ようかと声を掛けていた。
残念なことにココロと俺は別のテーブルだから、関係のない話っちゃ話なんだけどさ。
盗み聞きをしていると四人分くらい持って来るみたいだ。
手伝ってこようかな。
一人じゃ大変だろ? なあ?
「ケイ、俺。コーラ」
「は?」
動く前にヨウが俺の目の前に空のグラスを置いてきた。
ヨウ、お前、俺をパシリに……なーんてね。
はは、気を遣ってくれているんだろう? ミエミエダヨ。
「んじゃオレも」
向かい側に座っているモトが同じのをオーダー。
「キヨタも頼めよ」
モトに言われてアタフタと申し訳無さそうにオレンジジュースをオーダーしてきた。
こいつ等、揃いも揃って俺をパシリか?
極め付けにタコ沢にまで……アリエネェ。
俺はココロの手伝いをしに動こうと思ったのに。
もしかして、気遣われたのかな?
皆に勘付かれているのかもれない、俺の気持ちにさ。
今まではそれで慌てふためく自分がいたのだろうけれど、不思議と今の自分は落ち着いている。
渋々腰を上げて四人分のグラスを片手に移動。
ドリンクバーコーナーまで早足で歩いた。
先にコーナーに立っていたココロは俺の出現に、
「皆さんに頼まれたんですか?」
目尻を下げて問い掛けてくる。
頷きパシられたとおどけ口調で返す。
クスクスと笑うココロは一人ひとり空のグラスにジュースを注いでいた。
「この後はどうするんでしょうね? 時間帯的に解散ならいいんですけど。私の家、門限がちょっと厳しくて」
「どーだろうな。また二次会的なノリでカラオケに行ったりしてな?」
「だったら私はお暇しないといけませんね。最後まで一緒にいたいんですけど」
ココロは困ったような笑みを浮かべて、次のグラスを機械にセット。
ボタンを押して量を確かめながら注いでいく。
流し目で見ていた俺だけど、ちょっと間をあけて「頑張ろうと思うんだ」ココロに話を切り出す。
何を頑張るつもりなのか、言うまでもないと思う。
押す手を止める彼女は俺の言葉の意味を理解したのか、ほんのりと頬を紅潮させた。
そしてちょっち意地悪な事を言ってくる。
「弥生ちゃんにですよね? 分かっています、頑張って下さい。私も頑張ろうと思いますんで」
俺もちょっち意地悪になって返した。
「ココロはヨウにだろ? 頑張れよ。全力で応援しているから」
勿論お互いに嘘だって分かっている。
だから余裕でこんな意地悪を言えるんだと思うんだ。
余裕がなかったら、真面目にへこんでいるよ。
意地悪は照れ隠しの表れかもしれない。
俺等はわざと目を逸らしたけど、すぐに視線を戻して笑声を漏らした。
「嘘だよ」
「嘘ですよ」
ちゃんと意地悪を訂正。
分かっているけどさ、万が一の確率で勘違いはされたくないから。
ちゃんと伝えたい、ココロにこの気持ち。
確かにさ、本当はこうして気持ちを伝えなくても彼女の傍にいるだけで居心地はいい。
こういう感情が好きの一種だとしたら、俺は喜んで受け入れたいと思う。
本当に居心地がいいんだ。ココロの隣は居心地がいい。
ときめいている気持ちも何処かに存在しているけど、安心する方が上。馬鹿みたいに心音が鳴る一方で安心する。彼女の傍にいることが。
でも、そんだけじゃ足りないかもしれない。
貪欲な俺がいる。
ちゃんと気持ちを伝えて、ちゃんとココロの気持ちを知りたい。聞きたい。ものにしたい。だから。