青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
(――やっと動いてくれたか。なんっつーか、長かったぁ。勘違いは起こしているし、恋愛に消極的だし、一時の感情だとかほざきやがるし)
何度その背中を一蹴したくなったか、ヨウは冷たいコーラで喉を潤しながら散々だった日々を思い返す。
嗚呼、お互いに気がありませんよ的なバレバレの視線に敢えて気付かない振りをしていた日々。
ちょい発破を掛けてやろうと、アレやコレやら実は裏で動き回っていたあの日々。
努力が結局実らず、ジミニャーノ組はちっとも距離を縮めようとしなかったという……これはラーメンだけで気が治まらないかもれない。
「二人がくっ付いたら、やーっと弄れるんだねねねねん!」
長かった、ワタルは握り拳を作って満面の笑顔を作る。
ヨウと同じように、ワタルもやっと動いてくれたかと思っていたらしい。
すると響子が駄目に決まっているだろと一喝。
弄りは禁止だと強く言った。
何故なら、折角くっ付いても周囲がなじってしまえば、二人とも萎縮して結果的に破局。
なんてこったい、まさかそんな……な展開勃発になりかねない!
ということで、これからも二人の恋愛は優しく暖かく微笑ましく見守ってやるのだと響子。
すべては可愛い妹分のためだと笑顔を作った。
彼女の妄想には些か極端があったような気がするが妹分を思う故だ。ご愛嬌というところだろう。
「うそーん」
ワタルはゲンナリして肩を落とした。
まーだ、あのもっどかしい光景を、なじることもできず指を銜えているだけだなんて酷過ぎる! そう言って嘆いている。
「でも大丈夫かな……二人」
弥生が心配の念を口にする。
「大丈夫だろ。さっさと告ってくっ付くだろーぜ」
ヨウが言うものの、弥生はまだ浮かない顔を作っている。
何か問題でもあるのだろうか?
「実はさ……私、二人が『エリア戦争』の前に好きな人の話をしていたのをちょっとだけ聞いちゃったんだよね」
あれは『エリア戦争』が始まる直前のこと。
倉庫裏、木材が積み重ねられている場所で二人は和気藹々と話している光景を弥生は目の当たりにしていた。
偶然にも告白の話で盛り上がり、微笑ましいなと思っていたのだが。
「二人とも好きな人を応援していたんだ。どうもケイは、ココロはヨウのこと好きだと思っているみたいなの。ココロは……その私のことが好きって………あの、えーっと」
え゛?
その場にいた不良達全員が固まった。
弥生はその後、すぐさま情報収集に出掛けたのだが、あれからどうなったのか知らずにいる。
「二人とも勘違いエンドってないよね?」
不安を拭うように、尋ねてくるが、え、まさか、そんな展開? ええええっ、不良達は互いに顔を見合わせ、そして「……」暫し無言。
次の瞬間、ヨウと響子が勢いよく立ち上がり、
「まさかの俺かよ。ココロの好きな相手が俺なのかよ。勘違いにも程があるだろ! なんだそりゃ! 助言していた俺の立ち位置が完全に嫌味な存在じゃねえか!
あんの馬鹿っ、なんでココロの好きな相手がよりにもよって俺になるんだよ。やけに恋愛に対して自信喪失していると思ったらっ~~~ッ、おいワタル!」
「『別に好きな人がいるようです』そう言って、頑なに恋愛に消極的だったのはっ……ココロがあんなにも自分に自信を無くしてた理由はっ、そういうことかッ~~~、ワタル覚悟はいいか!」
「なんで僕ちゃーんが犯人扱い?! 意味ワカメ!」
「どーせテメェがケイをからかったんだろうが! ちったぁ空気読みやがれ! 俺等と種類が違うんだぞ阿呆がぁああ! 俺とケイの仲に亀裂を入れてぇえのかぁああ!」
「ココロに冗談は通じねぇとあれほど言ってンのにっ……女にすっぞ! 二人は晩熟だから、からかうなっつっただろうがぁあああ! 仲間内をネタにするなんざいい度胸だなぁああ!」
「だからなんで僕ちゃーんがやった前提?! 冤罪だっぽーん! 弁護士っ、弁護士呼んでぽんず!」
地味組の舎兄と姉分に責められ、ワタルは自分じゃない。自分は関係ない。寧ろ自分濡れ衣だと首を横に振る。
日頃の行いは何とやら。
残念な事にワタルの訴えは信用してもらえず……まったくもって二人の勘違い事情を知らない不良達は少しばかりファミレスでパニックに陥っていたのだった。