青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―







真っ黒に塗りたくった空にのっかっているお月さんはちょいと顔が欠けている。


半月でもなければ三日月でもない、誰かに顔を分けたんじゃないか? と思うほどの小さな欠け具合。


空飛ぶアンパンヒーローみたいな欠け方してらぁ。


もしかしたら、誰かに貸したのかもしれないな。

お月さんの光が必要だから、一日だけ貸して下さいとお願いをされてさ。


きっと明日の夜になれば元通り、真ん丸お月さんに戻っているに違いない。


お月さんの光のおかげで星は顔を隠しているけど、千切られたような雲は点々と見られる。


昼見る雲と違って、夜見る雲はなんだか地上に圧迫感を掛けているみたいだ。

存在を忘れるなとでもいうように、俺達のいる地上を見下ろしている。見据えているって表現が適しているかも。


そんな空の下ではビルや車の人工光が埋め尽くしている。

艶やかともいえる光たちが右往左往、空の上にある光になんて負けませんわよと色を放って空にアピール。


地上の光はまるでどギツイ化粧でもしたようなケバケバシイ色が多い。

見るからに痛々しい色なのに、堂々と発光して自然の光に対抗している。


常に光戦争の真っ只中にいる人間は、両者にさほど興味を向けることもなく思い思いの時間を過ごしているみたいだ。


俺も普段は光戦争に目を向けることなんてない。

地上で自分の興味あることにしか目を向けてないよ。


今日は特別だから、こうやって空を見たり、街並みを見たりしているだけだ。


街道を歩いている俺はココロと会話することなく、ゆっくりとした歩調で肩を並べていた。

ファミレスからコンビニまで約七分程度の場所にあるんだけど、七分以上時間を掛けようと頑張っている。


だって正直コンビニに用事なんてない。

コンビニに行くなんて、ただの口実なんだから。


人の行き交いが多い街道を歩く俺等はどうしても話を切り出すことが出来ず、緊張したまま足だけ動かしている。


歩きながら話すってのも、なんか心落ち着かないな。

だからって立ち止まって話すのも落ち着かない。


結局どういう状況になっても、落ち着かないんだ。今のこの状況は。


心音だけが、やけに鼓膜に纏わりつく中、俺は一々ココロの足並みを気にしながら歩く。


少しでも遅れたり、先を行ったりしないように。 


「ケイさんと、こうやって二人で歩くって初めてかもしれませんね」


状況を先に打破してきたのはココロ。

いつも自転車だから変な感じがすると曖昧に綻んできた。



そういえばそうかもしれない。



ココロと買出しに行った日も基本的にチャリだったし(しかも二人乗りだったし)、彼女と一緒に歩くといっても、チャリとめて店に入るまでの距離。内をうろつく短い距離だったから。

こうして肩を並べて街道を歩くなんてなかったかも。


「俺だって歩きくらいあるよ」


彼女に笑い掛ける。


ちょっと声音が引き攣ったのは緊張のせい。


向こうは気付いてくれているのかいないのか、それに対して反応することはなかった。


「だって自転車といえばケイさんですよ」


ココロは歩きよりも、自転車に乗る俺の方がしっくり来ると笑顔を零す。

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