青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「自転車に乗って助けに来てくれた時もありましたから……前触れもなしに現れて助けてくれるケイさん、月光仮面みたいでした」
「疾風のようにチャリで現れて、疾風のようにチャリで去っていく。あの人は誰? 答え、地味っ子田山圭太でした! ……ココロ、月光仮面だったら俺、おじさんになるんだけど。ココロと同じ世代だから、俺」
それにちょっと世代古いかな、月光仮面。
分かる人は分かるだろうけど、分からない人には分からないぞ。
今の時代はバットマンかな、バットマン。
真昼間からチャリ乗って助けるバットマンもお笑いネタにしかならないけどさ!
持ち前のお調子乗りのおかげさまで、すっかり空気が緩和されてココロもクスクスと笑ってくれる。
空気を崩した感はあるけど、緊張したままのギスギス空気で時間を潰すより断然マシだと思った。
そうやってココロは笑ってくれていた方が好きだよ。垢抜けてない笑顔を零してくれる方がずっとずっとずっと好きだ。
好きなんだ、笑ってくれるココロが。
「助けに来たというよりも、あの時は無我夢中だったんだ。ココロが不良に絡まれているの見て、いても立ってもいられなくなったんだ」
めっぽう喧嘩が弱いくせに、相手に喧嘩売る勢いで現場に乗り込んだ。
俺はあの時のことをあるが儘に白状する。
向こう片側三車線では車の行き交いが激しい。
前から後ろか車が流れているのを視界の端で捉えることができる。
流し目で見つつ、俺は前方を見つめて言葉をゆっくりと紡いだ。
「その時にはもう……意識をしていたんだ、ココロのことを。
実を言うと買出しに行った時から意識していた。散々お友達でいましょう的な空気を作ろうと頑張っていたけど、本当は意識しまくってたんだ」
また声音が引き攣るけど、構わなかった。
不器用、不恰好でもいいや。
飾らない言葉をココロに一つひとつ伝えたかったんだ。
純粋に自分の気持ちってヤツをさ、伝えたかったんだ。
「だから魚住の行為にビビッちまってさ」
まさか避妊具を投げ渡される日が来ると思わなかった。
傍から見ると、俺達はそういう付き合いをしている関係に見られていたのか。ショックだった。
自分の気持ちが彼女に、周囲にばれてしまったんじゃないか。
あの時はいつもぐるぐると思考を巡らせては悩んでいたのだとココロに伝える。
「そんな事件も遭って俺は……すべてをなかったことにしようとしたんだ」
ココロを意識しているのは一時、人種が似ているしチームには俺と彼女だけしか地味っ子はいない。
そのせいで変に意識をしているのだと思った。
仲間内でもちょいそういう目を向けてくるようになって、余計に片意地張った。これは一時の気持ち。
ココロには別に好きな人がいる。
俺なんかアウトオブ眼中、諦めてイイオトモダチ関係でいよう。
そう割り切ろうとした。
高鳴る鼓動に違うんだと言い訳をしてきた。
これは一時の感情だって思い込んできた。
傷付きたくないから思いを伝えるなんて大それた行為は避けてきた。
なのに、思いと気持ちは反比例。
思い込めば思い込むほど目は誰かさんを追って、誰かさんを気になって、彼女と話している舎兄に嫉妬していたりなんかして。
嗚呼やっぱり俺は恋をしているのだと思い知らされた。
大きな契機で恋に落ちたわけじゃない。
ドラマや漫画みたいに大きな事件を通して恋に落ちる、なんて面白い展開じゃないけど、俺は確かに恋に落ちた。
あの日ヨウが俺を舎弟にし、つるんでいる仲間を紹介してくれた。
皆と接していくうちに気になる人を見つけ、小さな日常の積み重ねが恋心に変わってしまっていたんだ。