青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「ヨウが好きなんだよ思っていた。だから諦めようとした。勝てないって分かってたから……んでも、相手がヨウが好きだと思い込んでも、どうしようもなかった。
きっと俺はココロのヨウに対する気持ちを知らなくても、伝えたい気持ちは変わらなかったと思うんだ。あ、信号」
俺はココロと立ち止まって、危険だと警告色を放っている赤信号を見つめる。
忙しい車の行き交い。向こうからオートバイでも来たのか、喧(かまびす)しいエンジン音が次第次第に近付いて来る。
それに便乗するように、俺はエンジン音と一緒に気持ちを伝える。恥ずかしいからなるべく騒音で散らして欲しかった。
だけどちゃんと受け取ってもらいたかった、その気持ち。
精一杯に笑いながら伝えるから。
「誰を見ていても、俺はココロに好きだって伝えたかったんだ。俺はココロのことが好きなんだ」
鼓膜が破れそうなエンジン音の塊が目の前を通り過ぎて行く。
通りに舞い上がる騒音と俺の告白は夜空に吸い込まれていくような気がした。
やがて赤信号は安全色の青信号へと顔色を変える。
向こうから人が渡ってくる中、俺もココロと横断歩道を渡る。
相変わらず足取りは遅く、亀のように俺達はノロノロと停車しているトラックや自動車の前を横切った。
向こうの道に辿り着く頃、信号は点滅。安全色は再び警告色へと変わった。
そのままコンビニに行く俺の足は、ココロが足を止めてしまったせいで立ち止まる羽目になる。
流れ始める車やバイクを背後で感じながらココロは俺を見つめて、泣き笑い。
ちょっと涙目になって、
「初めてで……」
何を返せばいいか分からないと本心を教えてくれるココロ。
薄い唇を震わせながら、一つひとつ言葉を紡いでくれる。
俺は静聴することにした。
ココロが勇気を振り絞って俺に気持ちを伝えてくれると分かっていたから。
「私……小中はずっと苛められて、疎ましく思われて……性格に問題があるって分かっていました。
でも……簡単に変えることなんてできなくて、響子さんと出逢うまではオドオドしてばかりで。
響子さんやヨウさん達に出逢っても、大して性格が変わるわけじゃなくて。
だから、その、私を女の子として好きと言ってくれる人は初めてで。嬉しいやら泣きたいやら、どうすればいいか分からなくて」
「うん」
「私でいいのかな? とか、卑屈に思ってしまいます……で、でもやっぱり気持ちに嘘はつけなくて。弥生ちゃんのことがずっと好きだと思っていましたから、その……えっと……」
言葉を詰まらせたのか、言葉が思い当たらないのか、ココロは口を閉じてしまう。
俺は微苦笑を零した。
彼女のそういう卑屈になったりするところは、仕方が無いと思う。
本人だって変えたいけど、簡単に変えられる一面じゃないのだろう。
辛い思いしてきているんだ。難しいことだと思う。
俺だってこの性格を変えようとしても、なかなか変えられない。
十年以上培ってきた性格だ。
口で言うのは簡単だけど、行動に起こして結果を出すのは難しいと思う。
だけどなココロ、俺はひっくるめてココロのことが好きなんだ。
卑屈なんて誰だって持っている面だし、ココロは自分の悪いところばかり口にしているけれど、本当はそうじゃない。
誰に対しても人に優しく接してやれる女の子と俺は知っている。
「ひとつ。ココロはさ、勘違いをしている」
俯いているココロに歩み寄って、そっと両肩に手を置く。
大袈裟に跳ねる彼女がおずおず見上げてきた。俺はそんな彼女に照れ臭く笑みを向ける。