青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



「ココロがいいんじゃなくて、俺はココロじゃないとヤなんだ。ココロじゃないと駄目なんだよ」



信号はまた青に変わったらしい。人が渡りの行き交いを始める。

こんなところで俺達は何をしているんだろう。

通勤帰りのOLさんやリーマン、学生さんが通る場所で佇む俺達は本当に何をしているんだろうな。

だけど今は人の目よりも、彼女の方が大切だ。

大きく瞠目して固まっているココロに、


「反応してくれないと凄く恥ずかしいんだけど……」


俺は苦笑いと照れ隠しの両方を見せた。

石化が解けたのかココロは涙目に、だけど花咲くような満面の笑顔で俺に気持ちを教えてくれる。


それはありきたりで、ドラマや漫画の中では溢れ返っている聞きなれた言葉。

でも俺自身には向けられたことのない、初めての言葉。  


「私、ケイさんが好きです。ずっと前から好きでした」


熱を帯びた気持ちが彼女の告白によって沸騰しそうだった。

人を好きになるって、逆に好かれるって、こんなにも息苦しくて沸騰しそうな……熱い気持ちに駆られるんだな。

まるで気持ちが火傷を負ったみたいだ。

高揚し過ぎた感情のせいで胸が疼いているし、ジクジクして痛いし、それに火照っている。


「そっか。一緒なんだな」

「はい、一緒です」


顔を見合わせて一笑、


「俺も好きだよ」

「私もですよ」


視線をかち合わせて一笑、


「片恋で終わると思っていたよ」

「実は私もなんです」


照れ隠しの一笑。


そろそろ四度目の信号の変化する、五度目かもしれない。数なんてもう覚えてないや。目前のことで頭が一杯だから。


「戻ろうか」


俺は踵返して信号を渡ろうかと提案。

目的地にしているコンビニになんて用事の欠片もないしな。

こっくりと小さく頷くココロは、初めて俺に小さな我が儘を口にしてきた。


ゆっくりと時間を掛けて戻りたい……と。


可愛らしい我が儘に異論はなかった。

俺は赤から青に変わる信号を眺めて、次で渡ろうと再提案。


「ちょっと遠回りして帰ろうか」


そう付け足して。

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