青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
信号を渡った俺達は、来た道と違う大通りをゆっくりと歩いてファミレスを目指す。
ネオンの集合体で充満している街道を二人で歩く。
相変わらず横の道路では忙しなく車が行き交い、歩道では通行人とちょいちょい擦れ違う。
また俺達の間で会話が消えちまっているけど、今度は緊張の空気じゃなくてドキドキの空気。
思いが通じ合ったから、空気に色付いちまった。
色に例えるとあー、桃色かな? え? クサイ? ……いいじゃないか、俺にとって初めての両思いなんだから! 桃色ピンク空気になってもさ! 不良とばかり青春してもおもろくねぇだろ!
俺だってこういう青春の一つや二つ味わったって罰は当たらないよな? な?!
あ、そうだ。
気持ちが通じ合って喜びを噛み締めている俺だけど、ココロに大事なことを告げないといけない。
これはちょっと気鬱になるけど、現実だから言っておかないと。あんま俺にとって芳しくない現実を。
「ココロ……あのさ。告白していてなんだけど……俺はココロと付き合っていいのか、躊躇いがあるんだ」
「え?」
突然の話題に、ココロは一変して吃驚している。
遠回りをするためにわざわざ歩道橋を選んで階段を一段いちだん、踏み締めるように上りながら、俺は構わず続けた。
「俺ってさ、ヨウの舎弟だろう? ヨウの名前は近所で売れっ子の不良。
おかげで散々な目に遭ってきたんだけど、最近じゃ俺も名前が売れてきているからさ。俺の彼女になったらココロも……危険な目に遭わせるかもしれない」
前みたいにガラの悪い不良に絡まれることもあるかもしれないし、きっと今まで以上に立ち位置を危険になる。
ただでさえヨウのチームメートということで立ち位置が危ないのに、舎弟の俺と付き合うことになったら彼女は今以上に危険な目に遭うかもしれない。
俺はココロを危険な目に遭わせたくない。
「ココロじゃないと嫌なのは本当。
でも、今の俺達は日賀野達と潰しあいをしている。どんな手で攻められるか分からない。利二の時のように、向こうが俺の好きな人を利用してくる可能性もある」
どうにもこうにも今の状況じゃなあ。
俺に彼女を守れるだけの手腕があればいいんだけど、残念なことに地味っ子平凡くんは非力だから。
今は素直に気持ちが通じ合った現状に喜びを感じ、それをよしとすれば良いのかもしれない。
嘘、全然良くない。
俺だって年齢相応の青春を満喫したい。
ココロの傍にいたいし、甘やかしたい。彼女の笑顔を独占したい。デートだってしたい。もっと心を知りたい。
だけどこればっかりは俺一人の問題じゃない。
ココロに辛い思いはさせたくない。
俺の我儘で彼女を傷付けるわけにはいかないんだ。
両想いという点だけでも今は満足するべきだろう。