青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「あのですね、ケイさん。私、とても我が儘なんです」
静聴していたココロが、静かに口を開く。
幾分明るい口調で笑声交じりに、とても我が儘なのだと俺に吐露。
皆からは人を気遣える良い子だと言われているけれど、自分だって人並みの我が儘は持っている。
彼女は軽く目を伏せて、だけどはっきり俺に告げてくる。
「思いが通じ合うだけじゃ嫌なんですよ。せっかくケイさんに気持ちを伝えられたのに、私が弱いばっかりに気遣わせて終わってしまう。両想いで終わってしまう。そんなの嫌です」
「違うよ、弱いとかじゃなくて」
「そうなんです。ケイさんに気遣わせてしまっている点で、そういうことになっているんです。ケイさん、心配してくれてありがとうございます。
だけど私、我が儘だから……ケイさんの心配を受け取れそうにないです」
歩道橋を渡っていた足を止め、ココロは決意を宿した瞳を俺に向けると「これじゃイヤです」はっきりと自分の気持ちを伝えてくる。
随分と勇気を振り絞っているみたいで、ぎゅっと二つの小さな握り拳を作って主張。
このまま終わらせたくもないし、気遣わせたくもない。
「何よりも……」
いつもオドオドしていたあの口調はどこへやら。強い口調で俺に訴えてきた。
「私はちゃんとケイさんの……特別にっ、なりたいです」
数メートル先で立ち尽くす俺に、ココロは言葉を重ねた。
「私、ずっとケイさんの背中を見てきました。ケイさんはいつも努力をしていましたよね。
ヨウさんに見合うような舎弟になろうと、周囲からとやかく言われても努力していましたよね。
喧嘩ができなくてもヨウさんの足として立派に動いていました。
今でも立派にチームのために動いています。
足手纏いにならないよう、水面下で努力をしているケイさんを私は知っています。
周りが不良でも、ちゃんと自分を持っているケイさんに私は憧れていました。
私と同じようなタイプなのに、直向きに不良と走るケイさんを……きっと好きになったんだと思います」
気付けば足が動いていた。
もう止められそうにない。
「私もケイさんみたいになりたいと思いました。
卑屈とか、オドオドとか、そんなの吹っ飛ばしてケイさんみたいに心を強くしたいです。
亡くなった両親も心を強くして優しく生きなさい、そういう理由で私に“こころ”って名前を付けたんだと思います。
今度は私が努力します。気持ちをもっと強くします。
ケイさんのため、いいえ、私自身のために。
他の人に取られたくないから……ケイさんの特別になりたい。そう思っちゃ、」