青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
チッキショウ、なんでヨウが俺達の勘違いエピソードを知っているのか知らないけど(俺とココロだけしか知らない筈なのに!)、ちょ、その話は俺の黒歴史だぞ! 出来ることなら消去したいんだぞ!
アアアッ、そんな意地の悪い目で俺を見ないでくれ兄貴!
ハズイ! 激ハズイッ!
ちょ、誰だよ、本当に誰だよヨウにチクったのぉおお!
誰よりもヨウにだけは知られたくなかったのにぃいい!
そうだよ、美形不良のヨウに嫉妬していました!
だってヨウ、イケメンだもの。嫉妬対象になってもしょーがないじゃないか!
俺だって嫉妬くらいするっつーか、なんっつーか……美形に生まれたかったんだぜ、女の子にモテモテになってみたかったぜ、とか思う夢見るボーイだよ。
逆ギレ? おおうっ、逆ギレだよ! 逆ギレ万歳だよ!
このやろうのド畜生、ヨウの奴、今しばらくこのネタで弄ってきそうだな。
母音に濁点付けるもんじゃないけど、ッア゛ー! な気分だ! 穴があったら隠れてしまいたいっ!
黒板消しを拾い上げ、俺は荒々しくそれをクリーナーに掛ける。
「え……ちょ、田山、お前」
「ナニ?! 今の俺は黒歴史という名の羞恥と闘っていて忙しいんだけど!」
声を掛けてくる光喜に噛み付く勢いで返せば、
「リア充? 彼女持ち?」
唸っている俺に構わず、光喜が指差してポツリ。
だったらどうしたとばかり鼻を鳴らしてみせる。
そーだよ、今話題のホットなリア充ですが? ……あ、今気付いた。
俺ってリア充か。
ちょいと前まで「リア充爆発しろ!」とか妬みながら思っていたのに、いやぁまかさ俺がリア充なんて……ちょっと照れる気がした。
俺でも彼女が作れると分かった。
好きと言ってくれる子がいると知った。
うん、幸せ。今まで爆発しろとか思っててごめんなさい。猛省します。
「最近、彼女ができたんだ。悪いかよ」
途端に、
「アリエネェ!」
光喜がダイダイダイダイ大絶叫。裏切られた気分だと、よろよろ後退した。
「おまっ……ジミニャーノ星を代表する地味っ子だったくせに、なに彼女を作っているんだよ! チョベリブだぜ今の俺! オトモダチを裏切っていいのかよ!」
「お生憎さま、先に薄情という裏切りをしたのはどっちだよ! 最近の俺はチョベリグ。不良と波乱万丈の日々を過ごしているんだ。
そ、そういう……ご褒美青春くらいあったっていいだろ。てか、チョベリブもチョベリグも完全死語だろ! 乗らせるな!」
ちゃんとツッコミも忘れず、俺は綺麗になった黒板消しを溝に置くと粉を払いながら早足で自分の席に戻る。
ヨウを待たせているしな。
それに……彼女と早く会いたいという気持ちもある。
俺達は他校同士だから学校で会えるわけじゃない。
遊びに行ける機会も今のところはないから……こうして小さな時間を楽しみにするしかないんだ。
あーあ、それはそれで切ないなぁ。
早く日賀野達と決着がつけばいいんだけど。
健太のことも同じ。
決着つけて、できれば友達に戻って……もう少し時間と心にゆとりを持ちたい。
ヨウ達とも普通に遊びたいしさ。
いがみ合う喧嘩より、普通に遊んだ方が楽しいや。
「やっぱりお前、くっ付いたんだな。コンビニに来たあの子だろ? 彼女」
急いで鞄を肩に掛ける俺に利二が一笑。
「見たことあるのか?!」
光喜がやけに食い付いてくる。
奴ほど恋愛青春を望んでいた男はいなかったから、人の恋沙汰にすげぇ興味があるらしい。
利二は光喜に頷いて、
「可愛らしい子だったぞ」
感想を述べてくる。
ちょっと誇らしげに思う俺がいた。
ココロは可愛いんだよ、おう、可愛いさ。
地味っ子だけどカンケーねぇ!
「あの子は控え目でいい子だったぞ。とても清楚な子だった。ココロ……だったか? 名前」
「うん、そう。ココロ。若松こころっていうんだ。他校に通っている子なんだよ」
デレ、頬を崩す俺に光喜がうぜぇと雄叫びを上げる。ガン無視をして透が祝福の言葉を贈ってくれた。
「わぁ可愛い名前。ココロちゃんか。いいなぁ、圭太くん。おめでとう。大事にするんだよ、彼女。捨てられないようにね!」
「おう、サンキュ透。最後だけ余計だけどさ!」
透とハイタッチすると、そろそろ廊下で待っている舎兄が痺れを切らすからと告げ、俺は三人に挨拶。
また明日な、手を振って教室を出た。
足取りは軽い。
やっぱ彼女に会えるあるからだろう。
俺は急いで舎兄の下に駆けて行った。
「はぁーあ……ココロちゃんか………可愛らしい名前。田山、アリエネェ……田山の立ち位置カワイソーとか思ったけど、彼女を持っている時点でカワイソーがウラヤマシーに変わったぞ。
いいよなぁ、彼女。
控え目でいい子で清楚ってことは不良じゃないんだろう? 不良とばっかつるんでる田山が、フツーに可愛い子ゲットとか。
マジねぇって。俺もフリョーになってみよーかなぁ」
「長谷、お前が不良になってもギャグにしかならないからやめておけ。第一お前は部生だろ。髪でも染めたら先輩にシバかれるんじゃないか?」
「舎弟として頑張っている圭太くんへのご褒美だよ。友達として心からお祝いしてあげなきゃ。
それに光喜くん、地味っ子圭太くんに彼女ができたってことは、地味っ子僕等にも彼女ができる可能性があるって勇気付けられたじゃん!」
「そりゃそうだけど……」
何だか切ないヤルセナイ。
ガックシ肩を落として嘆いている光喜と、それを呆れ慰める利二、透のジミニャーノやり取りを、俺は知る由もなかった。