青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
――たむろ場に到着すると、あっちへうろうろ、こっちへうろうろ、そわそわのうろうろ。
忙しなく倉庫前でぐるぐる歩き回っているココロと、それを微笑ましそうに見守っている響子さんや弥生の姿を最初に発見した。
光景にヨウはお前愛されているねぇ、こんなにも首を長くして待っているじゃん的台詞を吐かれた。
う、う、うるせぇやい。
こんな風に待たれてな、嬉しい俺がいるよ! すっげぇ嬉しいよ! 幸せ者だよ、ド阿呆!
心中で毒づきながら、俺はココロに改めて視線を向ける。
それにしたってココロどーしたよ、あんまりあっちこっち動き回っていると疲れるんじゃないか?
そんなにアタフタと歩き回って……雰囲気も随分違う。
一目で分かった、ココロの雰囲気が違うことは。
とてつもなく落ち着きのないココロに、「よっ」チャリを押しながら彼女に歩み寄って話し掛ける。
ビクビク。
肩を震わせた後に、カチンコチンに静止するココロは「こ、こ、こんにちは!」物凄い緊張交じりのどぎまぎ声で挨拶を返された。
俺に対して緊張している、みたいだ。
気にしたら多分、負けだと思うから俺はココロを見るなり綻んだ。
「髪、切ったな。ショートになっている」
今までココロはセミロングヘアだったんだけど、今はバッサリ切ってショートヘアになっている。とても髪が軽そうだ。
「に、に、似合っているでしょうか?」
「うん、凄く似合っているよ。雰囲気も変わったし、前以上に明るくなったな」
どっちの髪型も好きだったのだけれど、セミロングへアの時のココロは前髪を伸ばしがちで顔を隠していたから、俺はどちらかといえば今の方が好きだ。
率直にそう言うと、彼女はちょっと照れたのか、柔和にはにかんでくる。
女の子のはにかみってどーしてこんなに可愛いんだろうな。男がしても可愛いも畜生もないのに。
「良かったじゃねえか、ココロ。決心して切ったかいがあったな」
フロンズレッドの髪を弄りながら、響子さんはココロに笑みを向けた。
髪を切るのに決心って……ちょい大袈裟な気がするけど。
「女の子がバッサリと髪を切るって意味があるんだよ」
弥生が俺の心中を見越したように助言。
意味がある……うーん、そういえば女の子は野郎と違って髪を長く伸ばすことができるから、伸ばしている子にとってみればバッサリ髪を切るって勇気がいる行為かも。雰囲気もガラッと変わるしな。
わりと男にもあるけど、雰囲気をガラっと変えるのは随分と勇気がいることだ。
特に地味っ子はお洒落な格好に憧れつつも、「あ、やっぱいつもどおりで」とか美容師さんに言っちゃうんだ。
髪染めとか論外だぜ、雰囲気変わるどころじゃない!
それにしても、なんで髪を切ろうとしたんだ? 心境の変化の表れ?
心の中で疑問を抱いていると、ココロがズバリ回答してきてくれる。
「わ、私……もっとしっかりしようと思ったんです」
しっかり……とは?
「ココロ、いつもしっかりしているじゃん?」
「わ、わ、私! 少しでも舎弟のケイさんに見合う……お、女の子になりたくってっ! ……か、髪を切ったんです。気持ちを強くする。努力をするって、ケイさんに言いましたから……その髪を切ろうと思って」
ホーホケキョ。
俺の中で唖然ウグイスくんが一声。
思わず握っていたハンドルを手放しそうになった。
「うわっち?!」
傾くチャリを慌てて起こすと、俺は赤面しつつも反応を待っているココロを流し目。
そ、そういうのって反則っつーんですよ、ココロさん。