青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「つまりそのままで十分!」
あははっ、あははっ、俺は誤魔化し笑いを上げながらお寝んねしているチャリを起こすと、急いで通学鞄を拾って肩に掛けた。
「チャリを置いてくるから」
俺は逃げるようにチャリを押して倉庫裏に向かう。
するとココロが俺の後を追い駆けて来て一緒に行くと肩を並べてきた。
あどけない顔で見上げて綻んでくる、その頬はちょっと赤みをさしていた。
倉庫裏まで目と鼻の距離。
でも彼女と一緒に行くのも悪くないと思う。
気付かれないように視線を流すと、バッチリ視線を受け止められて思わず一笑。
髪を切ったことで明るい顔が見えやすくなったよな、ココロ。
笑った顔がよく見えてイイカンジ。本人には気恥ずかしくて、こんなことは言えないけどさ。
「あのですね、ケイさん。今日、実は昼休みにこんなことが」
向こうの学校生活を聞かせ始めてくれるココロ、一生懸命な彼女に俺は目尻を下げた。
今はまだ、彼女にしてあげられることが少ないし楽しい思いもなかなかさせてあげられないけど、こうやって傍にいることはできる、とか、クサイことを思ってみる。
でも全部本当の気持ち。
ココロに対する本当の気持ちだ。
例えば、ココロが俺のために行動したことは、全部俺にとって糧になることなんだと思う。
「それでその時、先生が来まして。響子さんの煙草がばれそうになって」
例えば、ココロが俺のために行動をしたことは、全部俺にとっても意味のあることなんだと思う。
「へえ、危なかったな。見つかれば処分対象だろ?」
例えば、ココロが少しでも俺を思ってくれた気持ちは、全部俺にとって大きな気持ちを貰ったことなんだと思う。
「シズさんと響子さんと私、三人で逃げちゃいました。でも後で先生に呼び出されてしまって、こってり絞られちゃいました。お説教だけで難を逃れられたんですけど」
無理に俺に合わせようとしなくたっていいんだ、ココロ。
そんなことをしなくてもココロの気持ちは十二分に伝わっているんだよ。
お腹一杯状態だって、これ以上されたらさ。今だってこんなにもときめいているのに。
ココロは今のままで十分だ。
ノリの良い子になるとか、お喋りが好きな子になろうとか、そんな考えを持たなくてもいい。
有りの儘でいてくれたら、それで十分なんだ。傍で笑ってくれてたら十分なんだよ。
髪を切った行為は、凄く嬉しい似合っているから何も言うことないけど、性格はそのまんまでいいよ。
「ケイさんは、今日どんな一日だったんですか?」
「ンー、それがツイてない一日でさ。数学の時間の時に居眠りしちゃって……皆の前で叩き起こされて恥掻いたんだ。あ、これは自業自得か」
ココロはココロのままでいいんだよ。
チャリに鍵を掛けてチェーンの錠をしっかりと下ろした後、俺は倉庫裏でココロとひと時の会話を楽しんだ。
すぐに皆のところに戻ろうとせず、限られた二人だけの時間を惜しむようにその場に留まって会話。
倉庫の壁に寄り掛かって何気ない会話を楽しんだ。
これが今の俺達の小さな恋人の時間とも言えた。