青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「――ココロの奴、ケイとデキてからすっかり明るくなったな。
嬉しい反面、うちのポジションをケイの野郎に取られて畜生って感じだぜ。
てか寂しい……ココロ。うちは寂しいぞ。
最近のアンタの会話にはケイしか出てきてないっつーか……いや前々からケイが話題に多かったけどよぉ。
あ゛ー……デートってのをあいつ等に体験させてやりてぇな。はぁ……あんな会話程度の時間じゃ足りねぇだろうに。
ッハ! ヨウ、弥生、計画をうち等で立てるのも策だよな?
最初は誰だってデートなんざ分からないだろうし、向こうだって晩熟だろうから。初デートのルートくらいうち等の手で決めても」
こっそりと倉庫裏をデガバメしていた響子はグッと握り拳を作り、妹分のためにと燃えていた。
普段は姉貴肌で仲間から慕われているお姉さんキャラが、残念台無しとなっている。
傍らでデガバメをしていたヨウや弥生も呆れるほかない。
「人の恋路はなんたらだぞ」
ヨウは頭部を掻きながら、やめとけやめとけと肩を竦める。
「ンなに世話焼いても本人達が嫌がるだろうが(俺もご免だっつーの!)。響子、テメェは極端にココロ馬鹿なところがあるぞ」
「折角ここまできたんだ。楽しい思いさせてやりてぇだろ! デートってのは何回でもできるけどなぁ。初デートってのは一度っきり! 初デートは可愛い娘の晴れ舞台だぞ!」
「……テメェはどこの親馬鹿だ」
「響子のカックイイ姉御の面が、馬鹿によって台無しになってる」
まったくである。
ヨウは相槌を打ち、本人達の好きにさせてやれと助言。本人達のテンポで恋路を進んでもらうのが一番なのだろうから。
それに……今はデートという気分ではないだろう。
しかめっ面を作るヨウはケイから恋人ができた喜びと、それに対する不安の両方を聞いていた。
相談されたのだ、「強くなるってどうすればいいんだろ?」と。
相談内容が内容だっただけに、ヨウは驚きを隠せずにいた。
今まで腕っ節や喧嘩の面に対して自他共に弱いと認めていたケイだが、認めるだけで強くなりたいと口にすることはなかったのだ。
だから相談を持ち掛けられた時は驚いてしまう。
舎弟は舎兄に不安だと弱音を吐いた。
また利二の時のような大切な人を人質を取られてしまう、“あの時”のような場面に遭遇してしまったらどうすればいいんだろう、と。
思い出す、彼との会話。
『俺はさ。喧嘩できないとか、経験が少ないとか、何かと理由をつけて……今まで強くなることを避けていた。
別の面で補えれば、それでいいんだって思っていた。
だけどさ、これからはそれじゃ駄目なんだと痛感している。
俺はヨウの舎弟で名前も売れているから、知名度が上がった分、喧嘩売られる回数も増える。
回数が増えたら、それだけ俺の周囲に危険が及ぶ。
ヨウは俺の友達を守ってくれると前に言ってくれたけど、俺もこれからは守られるじゃなくて守る方に回らないといけない」
『ケイ……得意不得意っつーのは誰にでもあるんじゃねえか?』
『弱いと自覚はしているよ。しているから怖いんだ。
もしも日賀野にココロを人質に取られて、舎弟を迫られたら今度こそ……そう思うと大切な人を作るって怖いと思った。
この大変な時期に告白してよかったのか、今更ながら悩んでいる。不安にさせるからココロには口が避けても言えないけどさ』
『……ケイ』
『ごめん、ちょっとグルグルしているんだ。まだフルボッコ事件が尾を引いているんだろうな。そろそろ断ち切ってもいいだろうに……これも俺が弱い、せいかな』
不安を吐露し、相談してくるケイの表情は苦笑いにまみれていた。
調子乗りで人に合わせることを大得意としているケイ。
しかし人に弱さを見せることを極端に嫌うケイは、不良の自分達とすぐに一線引く悪い癖を持っていた。
そのケイが惜しむことなく不安や弱音を舎兄の自分にはいてくれるようになったのは、それだけ自分を信用してくれている証拠だろう。
一線を飛躍、大きく隔たりを越えて相談を持ち掛けてくれる仲間に嬉しさを噛み締めつつも、不安に駆られている仲間に目も当てられなかった。