青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
だがヨウは一つ、ケイに言いたかった。
ヨウは信じていた。例えば舎弟が恋人を人質に取られようとも、そういう最悪の面に直面し、条件を突きつけられても……ケイは大丈夫なのだと。
ケイは弱い男じゃない。
簡単に屈しない男だと、ヨウは真摯に信じている。
自分の弱さ、そして自分の裏切りを恐れているケイにヨウは強く告げた。
『ケイ、俺はテメェを信じている。テメェは俺等を裏切るような奴じゃねえって。
確かにテメェの腕は弱い。手腕なんざこれっぽっちもねぇけど、テメェが思っているほど弱い奴でもねぇよ。立派に俺の舎弟してきたじゃねえか。
よくもまあ逃げずに此処までやってきたと思うほどに。
俺の舎弟ながら感服するぜ。
俺の思いつき行動で随分振り回しているのに、テメェは俺の舎弟をやってきた。そりゃテメェの糧にしてもいいと思う』
『……ヨウ』
『ケイ、もっと自分を信じてもいいんじゃねえか? テメェだって伊達に喧嘩を乗り越えてきたわけじゃねえんだ。
あの事件のテメェと今のテメェを比較してみろ。テメェは確実に強くなっている。俺が保証してやっから。それにココロだって弱い女じゃねえだろ?』
不意打ちを食らったような面を作るケイに、ヨウは彼の首に腕を回し、自分の選んだ女だろ? と一笑。
『ココロも弱い女じゃねえ。そういう場面に出くわしても、ぜってぇ大人しく従う女じゃない。信じてやれよ、ココロを。テメェの女だろ? テメェ等なら大丈夫だ。俺はテメェ等を信じているし、俺も仲間を守るために最大限努力するつもりだ。何よりも俺のためにな』
誰よりも仲間を、舎弟を信じると決めているヨウは彼に信じていると綻んでみせた。
大丈夫、仲間の誰もが不甲斐ないリーダーを支えてくれる強い面子。
個々人にその持ち前の能力が違っても弱い面子ではない。強いつよい、自分の大切な仲間達なのだ、と。
居場所を作ってくれている仲間を、自分はチームの頭として誰よりも守る努力をしよう。
ヨウはケイに誓ってみせた。
自分の言葉に幾分励まされたのか、舎弟はイケメンが言うと何でも格好良く聞こえるとおどけていたっけ。
記憶のページを捲っていたヨウだが、ふと引っ掛かるものを感じ、思案を更に巡らせた。
(最近思う……このまま潰し合う意味はあんのか? って。向こうの過度なちょっかいに腹を立てて、宣戦布告をしたのは誰でもない俺だけど……このまま潰し合った先に待っているものは何だ?)
元々中学時代の仲間だった自分達が、今こうして潰し合っている。
対立の契機は意見の食い違いから。考え方と価値観の違いから。
グループは分裂し、自分とヤマトを中心に二つに分かれた。
最初は分かれて終わる筈だった。
廊下や靴箱で顔を合わせれば、いがみ合うような空気を作っていたが、小競り合いも些少ながら起こっていたが、ここまで酷くなかった筈。
売り言葉に買い言葉、売り喧嘩に買い喧嘩、そんな関係になってしまった自分達だが、何故ここまで酷くなってしまったのか。
向こうがちょっかいばかり出してきたからこっちも。
いやこっちが、ちょっかいを出したから向こうも……どっちだ?
どっちが先に手を出してこうなった?
どうだったかも、もう憶えていない。
『エリア戦争』で学んだ。
喧嘩に勝って得られるものもあれば、後味の悪い勝利もあるのだと。
一件の事件で今更ながら対立していることに意味があるのかと、ヨウは疑念を抱くようになっていた。
決着をつければすべてが終わるのだろうか。答えは見えない。