青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



「何度も違うって言ったのに信じてくれないモンブラン。だから、だから、どーせ冤罪を掛けられるなら、思いっきり弄くって怒られた方がマシ!
……うぇい、このままじゃヤバイっ! ケイちゃーん、ココロちゃーんを借りるねんころり! いこうココロ姫!」


「あっ、えっ?!」


「へ? え゛っ?! ちょちょちょっ、ワタルさん!」


おいおいおい、ワタルやり過ぎ。


心底呆れるヨウは肩を竦め、こっちに向かって逃げて来るワタルのために道をあけてやる。

ココロを肩に抱えて逃げるワタルに響子は地団太を踏みまくり。

ケイはケイで慌ててワタルの後を追い駆けている。しかも全速力で。


「ワタルさんっ、嘘でしょ! そんなのあんまりですからぁああ! ココロを返して下さい! おぉお俺、指で数える程度しか彼女に触れていないのに! まだ手しか握ったことないのに!」


「わぁあああたあぁあるぅうう! うちにどんだけ喧嘩売るつもりだ!」


「お、下ろしてください……ワタルさんっ!」


「あんれぇ? ケイちゃーんにされた方がいい?」


「そ、そうじゃなく……う゛ー……否定できない自分がいます」



「うわぁおノロケられたぁあ! てっ、こっちも来たぁあ!」



「ワタルさんっ!」

「ワタルっ、あんた待ちやがれ!」



両者に追い駆けられているというのに(しかも一方はチームのお局さまだというのに)、ワタルは何処となく余裕と愉快の両方の笑みを浮かべて逃げていた。長髪のオレンジ髪を靡かせながら。


ヨウはワタルを捉え、瞳に閉じ込めて仲間を想う。

ワタルは大親友というべき男と対立している。


辛くない……なんてないだろう。


グループが分裂する際、ヨウはワタルとアキラの関係を心配し、無理して自分側につかなくて良いのだと素っ気無く言ったことがある。

 
ヨウはワタルがどちらのチームにつこうか最後まで迷っていたことを知っていたのだ。


ワタルはヤマトのことを嫌っているわけではないし、寧ろヤマト達の考えに理解も示していた。親友は向こう側についてしまったが、さて自分はどうしよう。


一見飄々としているワタルだったが、内心では随分と苦悶していた。


事件以前から自分と親しげに接してくれたワタルの苦悶している姿を見たくなくて、冷然と素っ気無く向こうに行くよう一蹴したのだが……向こうは自分の演技に大笑い。

演技がド下手くそだとヒィヒィのゲラゲラ。


人を指差して腹を抱え散々笑った後、実はもう決まっていたとばかりにワタルは自分の肩を叩いた。


『これからもよろぴく。ヨウちゃーん』

『ワタル……テメェ』


『だーって? アキラはアキラ、僕ちゃんは僕ちゃん。これは自分で決めることっしょ? 連れションじゃないんだから、向こうがヤマトちゃーんにつくからって僕ちゃーんも合わせる必要はナッシングだよん!
……自分を偽って後悔するくらいなら、ヨウちゃんを選んでアキラと大喧嘩した方がマシ。これは僕ちゃんの意志だよ、ヨウちゃーん。例えヨウちゃんでも、僕ちゃんの決定を曲げることは不可能。自分でそう決めたんだから、でしょ?』


最後の押しが欲しかったのだと、彼は素の笑顔を見せてきてくれた。

手前で決めたから自分達の関係のことは心配ご無用だとワタルは自分に告げてきたっけ。


しかし、結局未来である今はワタルの傷付く結果となってしまったのだ。


大喧嘩の末に二人は対立してしまったのだから。


ワタルだけじゃない。

他の仲間だって、向こうに因縁を持っていたり、犬猿の仲だったりするが、傷付くことを望んでいるわけではない。

決着をつけたいとは思っているかもしれないが、傷付けることも傷付くことも望んでいるわけではないのだ。


結局この対立と衝突の繰り返しは仲間を傷付けてしまうだけの、無意味な喧嘩なんじゃないか?


ヨウは思っていた。


仲間が傷付くよりも、仲間とワイワイ賑やかに楽しく過ごしていきたい、と。


浮かない顔を作る仲間、辛酸を舐めているような顔を作る仲間を見ているよりは、全員で馬鹿みたいに笑い合う仲間の光景が見たい、と。


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