青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



いやしかし、仲間が穏やかに過ごしていくには向こうを潰すしかなく……潰したら仲間が傷付いて……んじゃ潰さずに仲良くしましょうと交渉を持ちか……だぁあーれが奴等と仲良くなるか。


向こうだって何のジョークだと鼻で笑うだろうし、内輪揉めの原因にもなりかねないっつーの。


なんのための宣戦布告だドチクショウ。

今まで何をやってきたんだって仲間に怒られるぞ。


嗚呼、だけどどうすればいいんだ。

向こうを潰す。仲間を傷付かないようにする。仲間を守りたい。


これは悪循環? エンドレス? イタチゴッコ? 俺は誰? 俺は荒川ようい……ゼンッゼンカンケーない。


「あーごちゃごちゃしてきた」


ヨウは苦手な頭を使い過ぎてパンク状態になりつつあった。


「頭が爆発する」


ついでに芸術は爆発だそうだが、芸術よりもはるかに自分の方が爆発しそうだ。

頭の細胞が使い過ぎによって爆ぜている気がする。

うんぬん悩み、小さく唸っているとパチン――眉間に衝撃。


「イッテ」


小さな痛みによって現実に思考を戻されたヨウは眉間を擦りながら前方を睨む。


「油断大敵」


そこには悪戯っぽく綻ぶハジメの姿があった。

何をするんだと鼻を鳴らすが、どこふく風でハジメは似合わないと人差し指で再びヨウの眉間を弾いて、大袈裟に肩を竦める。


「ヨウらしくないね。眉間に皺を寄せているなんて。考え事かい? そんなに頭を使っていたら、知恵熱が出るからよしときなよ。
まあ、知恵熱の本当の意味は“乳児にみられる原因不明の発熱”って意味だけどね。どう? 息抜き程度の豆知識。ためになったかい?」


「おかげさんで、超小ばかにされた気分だ」

「ご名答。よくできました。リフレッシュしてくれたみたいで嬉しいよ」


おどけるハジメが肩を並べてくる。

シルバーの髪を微風に靡かせハジメは、ココロを取り戻そうとしているケイ、響子、逃げるワタルと担がれているココロの騒がしい光景を佇むように見つめていた。


その瞳にナニを宿して、光景を見つめているのかは分からないが彼は恍惚に光景を瞳に映している。


「平和だね」ポツリ、不意に零すハジメの感想に、「ああ」ヨウはそうだなと相槌。


本当に平和だ。

ここ数日の日々は大きな喧嘩もなければヤマト達との衝突もない。骨休み的な日常。心がとても安らぐ。


「こういう風に皆で平穏に……の方が僕的には好きだな。一々喧嘩なんてやってたら身が持たないよ。ヨウに愚痴ってもしょうがないか」


苦笑いを零すハジメを横目で見つつヨウはポケットに捻り込んでいた煙草を取り出すと口に銜え、百円ライターで先端を焙った。

「羨ましいなぁケイは。彼女なんか作っちゃってさ」

ハジメは頭の後ろで腕を組む。

必死にワタルの前に出てココロを下ろしてくれるよう頼んでいるケイを微笑ましそうに眺めている。


「テメェも告ればいいじゃねえか」


誰とは言わない、けど相手に好きな女いることは知っている。自分から見たら相思相愛だと思う。
相手は告白してくれるのを待っているのでは?

そう茶化しても相手には効果はいまひとつだったらしい。彼は軽く笑うだけで流してしまった。


「弱さに溺れている落ちこぼれくんに告る選択肢はナシ……ってところかな。

僕はケイと違って自他共に認める頭でっかちの卑屈さんだから、行動する前にあれやこれやら考えるんだよ。
ヤダヤダ、こういう男ってモテないから気を付けなよヨウ。

ああ、君は既に美形くんだからイラナイ心配だよね。羨ましいことで」


「……落ちこぼれねぇ。生憎いねぇよ、チームにそんな奴。
落ちこぼれなんざ耳障りのする奴は俺のチームメートにいねぇ。優等生くんならいるけどな。

優等生不良さんの頭脳のおかげさんで、『エリア戦争』の勝機を掴むことができた。その頭脳、少しは俺に分けて欲しいくらいだ」


紫煙を吐き、


「そうやって吐けばいい」


ヨウはハジメにつっかえている胸の内を吐けばいいと笑う。



幾らだって聞いてやる、それがリーダーだ。


静かに煙草を吸い、その煙の味を噛み締めるように味わう。

苦味の中に、仄かなしょっぱさ。自分が愛用しているお気に入りの煙草の味は、そんなしょっぱさが煙に染み込んでいる。

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