青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
心の中の俺は果敢にも金髪不良に反論している。
現実の俺は引き攣り笑いしているだけ。
何本か青筋が立っているかもしんないけど、反論なんて大それたこと出来ないという悲しい凡人のサガ。
反論して喧嘩に持ち込まれたら、絶対に負けるからな。
「落ち着けよ」
ヨウは吼える金髪不良を宥め始める。
不満そうに「だって!」と俺を指差してくる金髪不良は脹れ面を作る。
「こいつがヨウさんの舎弟なんて……不釣合いですもん。腕っ節が強いとかなら認めても良いですけど、こいつ、なあんにも無さそうじゃないですか」
「グダグダ言うんじゃねえ。モト。ヨウが決めたならそれでイイじゃねえか。男のクセにちっせーな。玉潰すぞ」
文句を垂れる金髪不良に響子さんが一喝。
響子さん、曲がったことが嫌いな上にネチネチ文句垂れる奴が嫌いなんだ(玉潰すって、マジこわっ)。
金髪不良は身を竦めてしまった。が、俺に対する不満は止まらないようだ。
俺の表情を見て何の癪に障ったのか、キッと睨みつけてくる。
「オレはアンタみたいな奴、ぜぇぇええってぇええ! ヨウさんの舎弟なんて認めねぇからな! 認めてもらいたいならオレと勝負しろよ!」
モトという不良は俺に果たし状ならぬ果たし宣言してきた。
何で来て早々喧嘩を吹っ掛けられたり、悪態付かれたり、勝負しろって言われなきゃならないんだ。
俺、なあんにも悪い事してないのに。
思わず溜息。
それが金髪不良の癪に障ったのか、片眉をつり上げてきた。
「アンタ余裕こいているんじゃねえぞ! 表に出ろぉおお!」
「モト。いい加減にしろ。何が気に食わないんだ?」
ヨウが呆れながら止めに入ってきてくれた。俺を睨みながら金髪不良は鼻を鳴らす。
「全部っす!」
全部だってさ。そりゃ参ったね。あははは、帰ろうかな、俺。
「こいつの存在自体、気に食わないですよ!」
「……だとしても、だ。今の挨拶はねぇだろ。腐った挨拶は好きじゃねえ」
「うぅ……」
「それに俺が誘ってケイを此処に連れてきた。仲間がケイに怪我させるような真似なんざされたら、連れて来た俺はケイになんて詫びればいい?」
途端に金髪不良はシュンと項垂れて「だって」と口を尖らせる。
もしかしてヨウの舎弟になりたいのか、こいつ。
なりたいなら俺、喜んで舎弟の座を譲るけど。
金髪不良、ヨウを慕っているようだし。
項垂れる金髪不良にヨウは溜息をついて、代わりに紹介してきてくれた。
金髪不良の名前は嘉藤 基樹(かとう もとき)、通称モトと呼ばれていて、現在中三。俺の一つ下。だそうな。
「悪かったな。ケイ。モトに代わって詫びさせてくれ」
「いや、気にしてはないけど」
めっちゃ気にしてるけど、さ!
「モトは悪い奴じゃねぇんだ。普段は気の利く良い奴なんだが。今は虫の居所が悪いらしい」
紹介してくれるヨウには悪いけど、俺、このモトって奴とは友達になれそうにない。
だっていきなり殴り掛かってきた奴だぜ?
そういう奴と仲良くなれるほど器用な男じゃないって。毛嫌いされているなら尚更だ。
「違うっすよ。コイツが気に食わないだけっす」
これだもんな! 絶対仲良くできないっつーの。
「……モト、テメェな。ケイ、ほんと悪かったな」
「いいって。うん、パワー溢れた挨拶ダッタヨ」
「あー! 今馬鹿にしただろ! アンタ馬鹿にしただろ! オレなんかな! アンタよりもヨウさんのこと知っているんだぞバーカバーカ!」
そうかよそうかよ、俺は何も知らないんだぜバーカバーカ!
「……マジで悪い、ケイ」
「……素晴らしい後輩だと思うよ。ヨウ」
うん、ほんとヨウのことを尊敬しているのは分かったよ。