青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「(もしも弥生を守ってやれていたら、僕は堂々告白をしていたんだろうな。過去に囚われる男だよな、僕って)ん? あれは……」
下り坂をおりているハジメの足が再び止まる。坂の最後尾に不良の群らしき軍団。
「不良が群をなすとカラフル集団だなぁ」
不良の自分が、人サマのことは言えない立場じゃないけど。
片方の眉根をつり上げ、目を眇めるハジメの本能は警鐘を鳴らしていた。
関わらない方がいい。
おりることをやめ、別のルートで学校に行こうと踵返す。
すると向こうからニコッと笑顔を零して自分に歩んでくる女不良が一匹。
自分とお揃いの色を持つシルバーの長髪を一束にし、尾のように束を揺らしながら自分に向かって来る。
随分と胸のでかい女だと思いつつ(男としてそこを見てしまうのは本能的。仕方が無いことである)、自分に用事があるという足取りだが、気付かぬ振りをしてハジメは坂をのぼり始めた。
関わるだけ無駄だと自分に言い聞かせ、早足で女の脇をすり抜ける。
次の瞬間、しなやかな腕が伸びて自分の腕に絡んでくる。
嗚呼クソッ、捕まった。
多分来るとは思っていたが現実として起こってしまうと気鬱と苛立ちが増す。
軽く舌を鳴らし、
「ナニ?」
その手をぞんざいに振り払う。
気安く触るな、お前誰だよ、馴れ馴れしい、でかい胸しやがって、内心で嫌悪感を募らせていた。
そんなハジメに気にすることもなく女不良はニヤッと口角をつり上げ、グロスの引いた唇を動かす。
「ハジメサーン、私達と遊びましょう」
まったくもって面識がないのだが、向こうは自分のことを存じ上げてくれているようだ。
しかも私“達”って私とじゃなく、複数でのお誘いですか。ありがた迷惑なお誘いだ。
背後に感じる複数の気配に冷汗を流しつつ、
「間に合っているから」
ハジメはお誘いを丁重に断った。
勿論、それで逃れられるとは露一つ思わないけれど。
(さてとこの雰囲気は利用……されるのかな。だったら僕は――)
真上の曇天は近未来を予測しているように、雲の層を厚くしていた。