青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
◇
「――ハジメ、遅いなぁ。何してるんだろう」
昼休み。
どんより曇天模様の下、体育館裏で昼食を取りつつ談笑してた俺達は、ふと漏らした弥生の独り言に話を打ち切った。
そういえばハジメの奴、昼休みくらいには学校に来るとメールで言っていたのに……遅いなぁ。
昼前には着くと言ってなかったか?
まあ、ワタルさんとシズで夜通し飲んでいたみたいだから、二日酔いで死んでいるのかもしれないけど。
まったく未成年が飲酒とかありえないんだぜ!
お酒は二十歳から、それを守らないからハジメのように地獄を見るんだ。うん。
飲み過ぎは体に毒だっつーの。
俺は二十歳過ぎても飲み過ぎないよう気を付けるんだぜ。
つまらなさそうに唇を尖らせる弥生は、早くハジメが来てくれるようグチグチ。
ほんと、弥生はハジメが好きだな。
そんなに好きなら告っちゃえばいいのにな! ……まあ、最近まで告ろうかどうか悩んでいた俺が強く言えることじゃないけど。
「随分と飲んでたしねぇ。ハジメちゃーん。死亡中かもよんさま」
ワタルさんはヤキソバパンを頬張りながら、そのうち来るでしょうと興味なさ気に答えた。
ンー、というか飲み過ぎて二日酔いバッタンキューなら今日は来れないんじゃないか? 強がっても、体が不調なら……なあ?
だけど来ると言ったからには待つ人もいるわけで、弥生はさっきから来ないかな来ないかな来ないかなぁ……もはや口癖になってらぁ。
あんまりにも口癖になっているもんだから、
「電話してみりゃいいだろ」
ウンザリしたのかヨウが打破策を出す。
耳にたこができる、なんてヨウは愚痴を零しながらあんぱんにかぶりついていた。
何処も春だねぇ、なんて嫌味垂れながら。
……なあヨウ、俺、カンケーなくね? ここで俺を出すのはおかしいだろ?
確かに春です。
田山圭太には春が来てます。
そりゃもう人生薔薇色。
これまでにない恋愛経験をしてますが、ここで俺に嫌味を飛ばすのもどーかと……いいじゃんかよー!
散々お前の我が儘と思いつきに振り回されてきた俺なんだぜ?!
俺だって幸せになる権利くらいある善良な一般市民!
苦労を重ねた分、幸せになりたい!
春の幸せを噛み締めてごめーん!
俺の心中反論を余所に、
「電話してみる」
弥生はイソイソと携帯を取り出す。
機器を耳に当てて、向こうの反応を待っていた。
どーせ弥生が電話したら、二日酔いでも飛び起きて出るんだろうな。
だってあいつ、弥生のことが「貴方、誰?」
ん? 弥生さん? 声音がめっちゃくちゃ低いんだけど。
揃って俺達は弥生に目を向ける。
そこには幾分時を纏った弥生の姿が。
どうしたよ、弥生、一体全体ナニが……「お楽しみ中失礼しました!」フンッと鼻を鳴らして電話を切る始末。
えええっ、ナニ? どうした? 弥生さん、なんでそんなに「ヨウ! 私と付き合って、彼女にしてー!」
はああ? そこで告白っすか?! 何がどーなってそうなった?!
事情もロクに呑み込めていない俺等は、弥生の突拍子もない発言に目が点。
弥生以外の男共は大層間抜け面を作っていると思う。
一方、「あんな奴知らない!」フンッと鼻を鳴らし、ジタバタと足をばたつかせて苛立ちを見せているのは弥生。
「ワタルでもいいや!」
フリーになっている男に対して、積極的に彼女してくれアピール。
「こうなったらケイ! 私と!」
そして俺に飛び火してくるというね! 俺は自他共に浮気許さない派だぞ!
「じょ、ジョーダン言うなって! 俺にはココロがいるから……昼ドラな展開はごめんだぞ! 響子さんにも殺される!」
「ううっ~! ケイの馬鹿! 勝手にココロとイチャイチャしときなさいよ!」
「完全に八つ当たりだろ、それ!」
「うっさい! ……ヨウ、ワタル~!」
ちょ、ちょちょちょ、待ちなっせ弥生さん。
アータにはハジメというボーイがいるじゃアーリマセンカ!
そんな自棄を起こして告白しても、男はときめきませんわよ! ……本当にどうしたよ。