青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
放課後。
すっかりしょげてしまっている弥生を連れて俺達はたむろ場に足を運んだ。
弥生はチームのムードメーカーだから、彼女が落ち込んじまうとこっちまで気が滅入る気分。
だからといって元気出せなんて無責任なことは言えず、結局男の俺達じゃ気の利いた言葉を掛ける事が出来なかった。
後のことは女子の響子さん、ココロに任せるしかない。
先にたむろ場に足を運んでいた響子さんとココロは事情を聴いて(ヨウが事前に電話で話をしていた)、落ち込んでいる弥生の傍に寄り添う。
やっぱ女子同士だと気が緩むんだろうな。
見る見る涙目になる。
「ちょっとパニックになっただけ」
ショックだったけど、ハジメをまだ信じていたいと声音を震わせていた。
お互いに気持ちを伝え合っていないけれど、弥生はハジメが好きで、ハジメも弥生が好き。俺達は勿論、本人同士もそのことに薄々気付いている。
弥生は信じているんだ。
まだ自分のことを想ってくれるんだと。
自分がハジメを想っているように、ハジメも弥生を想っているんだと信じているんだ。
俺は響子さんとココロに慰められている弥生を見つめた後、軽く目を伏せて自分の携帯を取り出した。
今日受信したハジメのメールを開いて内容確認。
メールの内容を読む限り、ちゃんと学校に来る意思表示はしているんだけどな。
ディスプレイに映っている文字の内容に嘘だとは思えないし、ワタルさんの受信したメール内容を重ね合わせてみると、本当に学校に来る雰囲気を醸し出している。
俺も信じられねぇよ、ハジメ。
お前が別の女と一緒にてお楽しみ中……なんてさ。
こんなことしてチームの輪を乱すお前じゃないだろ? 信じられない。信じられねぇよ。
「はぁ……なんで日賀野達の問題だけに集中できないんだろうなぁ」
携帯を閉じて、ポケットに捻り込むと俺は曇天を見上げる。
そろそろ雨が降りそうだな。雲行きが怪しくなってきた。
雨、降らないといいけどな。
中学組もたむろ場に来て、ハジメを除く全員の面子が揃う。
ヨウは全員にハジメのことを伝えて、自分と副頭のシズでハジメと話してみるから暫く事を荒立てないで欲しいと申し出た。
内輪揉めを避けようとしているんだな。
多分、俺と連絡が取れなくなった時もこんな風に内輪揉めを回避してくれたんだと思う。
デリケートな問題だから、メンバーを傷付けたくない。
日賀野達にでも感付かれたら厄介だ。
自分と副頭でハジメに会ってくると、ヨウはメンバーに口頭で伝えてきた。
「今の状況が状況だ。一個人の問題とは言え、この問題は追々チームの将来にも関わってくる。チームの輪を乱す行為はあいつに控えてもらわねぇとこっちも困るしな。
単独行動を起こしているハジメとは俺とシズできっちり話を付けて、こっちに顔を出させるから……テメェ等は此処で待機しておいてくれ」
「ハジメが……」
話を静聴していたモトが信じられないと肩を竦める。
モトはハジメと中学時代からの付き合いだから、心底現状を信じられないでいるみたいだ。
そんなことする奴じゃないと何度も否定をしている。
「第一ハジメは童貞じゃん! なあキヨタ!」
「えー……俺っちが知るわけないじゃんか。童貞なの?」
なんで、男共は揃いも揃ってそこを口にするんだろうな。
まったくもってデリカシーがねぇ。
此処には女子様がいるのに、ついでに下ネタ嫌いな響子さんもいるのに、その発言は大幅な赤点ものだぞ!
そりゃ……俺だってそう思っているよ、そんなことする奴じゃない。メンバーの誰もがそんなことする奴じゃないと信じている。
だからこそ、この現状が信じられないんだ。
ハジメが弥生を差し置いて、何処のどなた様か知らないけど女とアダルティーワールドを繰り広げているなんて。
こんなことをしてチームの輪を乱す奴じゃないって、現在進行形で俺等は信じている。
早速、ヨウとシズはハジメの下に行くみたいだ。
出掛けてくると俺等に伝えてくる。
後のことはワタルさんと響子さんを中心に任せた、なんてリーダー達の仕事を二人に任せていた。
もっとも、響子さんは弥生を慰めることで手一杯みたいだから、ワタルさんが中心になりそうだ。
ワタルさんで……大丈夫なのかなぁ。とか思ったのは俺だけの内緒だ。