青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
と、その時だった。
外出しようとしていたヨウの携帯が空気の悪い倉庫内に鳴り響く。
音からして着信っぽい。
今まさに出掛けようとしていたヨウが誰だよと舌を鳴らして、相手も確認せず、その電話に出る。
「ハジメ?!」
次の瞬間、ヨウの素っ頓狂な声音が響いた。
グッドタイミング、電話の相手は問題を起こしている張本人だったみたいだ。
「テメェ何してやがるんだよ! 今何処でナニをしているんだ。今、弥生がどうなってるのか知っているのか。てか、学校は?! 来るって言ってなかったか?!」
感情的になって捲くし立てるヨウをシズが宥め、まずは事情を聴こうとリーダーに意見。
同感だと頷く響子さんだけど、弥生を傷付けたことが腹立たしいのか、やや怒気を纏わせて自分達にも聞こえるようにしてくれと携帯をスピーカーフォンに切り替えるよう指示した。
スピーカーフォンだと周囲にも声が聞こえる。
ヨウから会話内容を聴くよりも、ハジメの説明を自分達の耳で直接聴きたいというのが響子さんの意見だった。
それに対して躊躇うヨウだったけど(弥生とハジメ両方を気遣っているんだな)、弥生自身がスピーカーフォンにして欲しいと何度も頼んだからヨウは、相手に皆がいることを伝えスピーカーフォンにしても良いかと尋ねた。
了承を得られたんだろう、ヨウは携帯を耳から外してスピーカーフォンに切り替えた。
それによって俺達はヨウの周りに集まることになる。
スピーカーフォンによって拡張する声音を聞き取るため、また俺達自身も向こうと話すために。
『ハージーメー。ねえ、ハージーメーってばぁ!』
『ちょっと、煩いから……ッ、くっ付くなって鬱陶しい!』
………おいおいおい嘘だろ。
ハジメさんの声と一緒に、いきなり甘ったるい女の声が聞こえてきたんだけど!
しかもくっ付くなってお前、女の人と何をしているんだよ!
女とハジメの声を聴いた途端に弥生が涙目。
オロオロとするココロ、それに慰めている響子さんの表情が凶悪面に……怖い……空気が怖い。重い。
呼吸困難になりそうなほど空気が悪い。
くそ、ハジメ……お前を信じているけど、この空気を作った責任くらいは取れよな! 怖いやら重いやら何やら最悪だぞ!
ヨウはヨウで、チームの空気に頭を抱えながら、
「何しているんだ?」
改めてハジメに状況を説明するよう強要。
学校に来るんじゃなかったのかよ、待ってたんだぞ。若干ヨウが責め口調でハジメに詰問。
たっぷりと間を置いて、ハジメは『二日酔いでね』と家で寝ているんだと返答。
嘘っぱちもいいところだ。二日酔いのくせに、どーして女の声が聞こえて来るんだよ。
まっさか女を連れ込んで……いやいやいや! 俺はまだハジメを信じてるからな!
『さっきはヨウ、電話して来てくれたみたいだね……ああ、弥生も電話して来てくれたみたいだけど』
もごもごと口ごもったような声でヨウに話し掛けるハジメ。
我等がリーダーは大袈裟に溜息をついた。
「おかげさんでこっちは色々ゴタゴタしているぞ。テメェ、マジで何して」
『あー…ちょっと昨晩酔った勢いで女の子を引っ掛けて、そのまま……シちゃったみたい、なんだ』
………は? ハジメ、それってつまり若気の至りってヤツっすか?
『ははっ……目が覚めたら女の子が隣に寝てて。学校に行く予定ではあったんだけどさ、ちょっと、その、ね。どーしよう……まったくもって記憶にないんだけど……責任を取るしかないよなぁ。これ』
ハジメさん、お前はチームの空気を悪くする天才だな。
今をもってチームの空気は雪崩れのように険悪ムードと化したんだけど。
俺には響子さんを見やる勇気なんて一抹もないや。
漂ってくるオーラだけで肌の細胞核が悲鳴を上げてらぁ。
響子さんは女の子を泣かす男ほど許さないものはないんだぞ。お前、分かっているのか?
……てかそれ、本当なのか? ハジメ、お前本当に女を……弥生、泣きそうだぞ。マジ泣き一歩手前だぞ。半歩手前だぞ。