青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
『僕のリーダーこういう奴だ。僕等チームの輪を掻き乱して、内輪揉めを望もうとしたって無駄さ。
ふふふっ、頭でっかちの弱者の僕を利用してチームを掻き乱したかったんだろうけど、生憎僕は君達に利用されるつもりはないよ。
ヨウも仲間も捻くれの僕を馬鹿みたいに信じてくれているからね。
今、向こうでは怒りに満ち溢れてるだろうけど、きっと彼等には僕の嘘も簡単にお見通しなのさ! 今も童貞でごめーん!』
「はじ……め? テメェッ、やっぱ今のは嘘か! ナニがあったっ、おい!」
『あっはっはっはっ、僕を利用できなくて残念だったね!
あっはっはっはっは! 失敗失敗大失敗!
……あ? やる? どーぞどーぞ。僕は仲間を売るくらいなら、此処でコテンパンのフライパンにされて野晒しにされた方がマシだね! 嘘っ、暴力は好きじゃアーリマセン!
あ゛ー、くそっ、弥生に変な誤解はさせようとするし……誰がアンタみたいな女を抱くって?
ただ単に胸だけでかい色女だろ。
酒の勢いがあったとしても僕はアンタみたいな女は抱かないって。
押し倒す勇気もないしね! 押し倒される恐怖はあるけど!
ふふっ、僕は利用されない。
僕自身のためにも、チームのためにも、此処で果ててやるさ。
それが僕を馬鹿みたいに信用してくれている仲間への恩返しさ。
何度、卑下に屈してチームを抜けようしたか。
その度に仲間が止めてくれた。支えてくれた。
だから今度は僕が仲間に恩返しする番。僕は利用されない。チームのためにも、あんた達の計画を覆してあげるよ。
うっわっ、カッコイイ僕! ッ……いってぇ……もー始める?
いいさ、やればいい。
僕は逃げも隠れもしない……いや、これは逃げられないと言っておこう。逃げられるものなら、僕だって逃げたいよ! 君達、なかなか卑怯だね。その人数』
――携帯機の向こうから聞こえる焦り交じりの皮肉染みた笑声。
ハジメ、お前っ、お前はっ。
一変して空気が変わる俺等は、各々ハジメの名前を呼んで向こうに呼び掛ける。
馬鹿みたいに笑っているハジメは『いいさ、やればいい!』向こうを挑発しまくってたけど、俺等の呼び掛けにようやく反応。
『ヨウ、ごめん』
ハジメは時間が無いから、チームリーダーの呼び掛けに反応した。
『僕は一旦、離脱する他ないみたい。
やっぱりこうなる前にあの時、チームを抜けておけばよかった……のかも。だけど僕は僕なりに……仲間……としてチーム……にやれたかな? やれてたらいいな』
「馬鹿言ってんじゃねえぞっ! 今何処だっ、何処にっ」
『大丈夫、一旦離脱するだけだから……すぐに戻って来るって……僕の選んだリーダーは君で、選んだ仲間は今のチーム達なんだから。
こんな僕でもさ、皆を仲間だって思いたいんだよ。僕を受け入れてくれた皆を、まだ仲間だって……ああそれと、弥生がそこにいるならさ、伝えておいて』
今日のことはぜーんぶ嘘。
今日も会いたかった、学校には行くつもりだったんだって。
不本意でも傷付けたことはごめん、後日謝るからって。
ちゃんと謝るからって……弥生に。
僕はね、どんな女に迫られてもやっぱり彼女のことがっ、うわっツ―――ブツン……ツゥーッ、ツゥーッ、ツゥーッ。
無情にも電話が切れた。
あまりのことに絶句していた俺等だけど、
「ばかぁそんなこともう、どうでもいいからっ」
振り絞るように弥生が声を出して弾かれたように駆け出した。
「弥生ちゃん!」
後を追ったココロが弥生の前に回って止めているけど、彼女はハジメを捜しに行くの一点張り。ココロの手を払って駆け出す。
怯むことなくココロが弥生の前に立って少し落ち着くよう促す。
だけど気が動転している弥生は落ち着けるわけないと絶叫。
悲鳴に近い声は倉庫内を満たした。
「ハジメがぁ……」
はらはらと大粒の涙を零しながら、「早くハジメを助けに行かないとっ!」彼女は大きくしゃくり上げる。
まるで弥生の涙とシンクロしたかのように、向こうに広がっている曇天は雨天と顔色を変え、水滴を落とし始める。
嗚呼、空も泣いているみたいだ。
どうでもいいことを思いながら、俺はヨウの指示を見越して行動を開始する。俺だけじゃない。
男共は全員、無言で雨空へと飛び出した。
指示をするまでもない。
指示を聞くまでもない。
俺達の気持ちは今一つになっている。
怒りと悲しみ、それから仲間を助けたい気持ちの三拍子が胸を占めているんだ。