青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
濡れ始めるチャリの鍵を解除した俺は、ペダルを漕いで倉庫裏か前に移動。
俺を待っていたヨウは、チャリが来るや否や後ろに乗って、
「シラミ潰しに行くぞ」
低い声で唸った。
怒りに満ち溢れていた、その声音に俺は怖じることもな、強く頷いてみせる。
「集団リンチができそうな場所を当たる。フルスピードで行くからな。振り落とされるな、兄貴」
「言うまでもねぇ注意事項だ。
テメェ等! ハジメを見つけたら直ぐに俺に連絡しろ! ナニが何でもあの馬鹿を助ける。
いいかっ! 連絡しろ! 輩を見つけても無暗に出しゃばるんじゃねえ! 弥生、ココロ、テメェ等もおとなしく待機することはできねぇだろうから捜す許可は出す。
けど何かあったら連絡はしろ。いいな? 響子、二人につけ!」
必ずハジメを助ける。
喝破に近い指示をして、ヨウはバイクに跨る仲間達から目を逸らすと俺に出すよう命令。
言われるまでもなく、俺は力いっぱいペダルを踏んで誰よりも先に倉庫の敷地を飛び出した。
バイクでは行けない細い路地を通って、ハジメがフルボッコにされそうな寂れた土地を目指す。
「ヨウ。俺のポケットから携帯出してくれ」
言われるがまま、ヨウは揺れるチャリの上でバランスを取りながら俺のブレザーに入っている携帯を取り出した。
「五木にだな」
俺の考えを見越したヨウは、アドレス帳を開いて携帯を操作。
躊躇なく利二に連絡を取り始める。
不良が集いそうな場所は利二の方が詳しい。
間接的だけど俺達の情報屋を買って出てくれている奴だ。
バイト先のコンビニに不良が入り浸るせいか、利二はそういう不良情報が長けている。まだ時間帯的にはバイトじゃないだろうから利二は出てくれる筈だ。
案の定、利二は電話に出てくれたようだ。
ヨウが早口で状況を説明して、利二に情報を呼び掛けている。
ぱらぱらと降る雨粒を全身に浴びながら、俺はヨウと利二の会話に聞き耳を立てつつハンドルを強く握ってハジメの無事を強く願った。
ハジメ、無事でいてくれよ。
俺、初めてなんだよ。
仲間が大ピンチだってことを知って、こんなにも恐怖を感じているの。
お前を心底仲間だと思っているからこそ、無事を願わずにはいられないんだ。
ハジメ、やっぱりお前は俺等の最高のチームメートだよ。
不良の落ちこぼれでも何でもない。お前は俺等の仲間だって堂々胸張って言える奴なんだよ。
怖い、こうしている間にも仲間が傷付けられているんじゃないかと思うと、怖くて仕方が無い。嗚呼、無事でいてくれ、ハジメ。
知らず知らずペダルを漕ぐ足にも力が入る。
冷静を欠かさないよう運転に集中しながらも、片隅ではハジメの受けているであろう暴力に、苦痛に、傷付けられているであろうその仕打ちに怖じていた。
シラミ潰し戦法ほど、不手際な戦法はないと思う。
手分けしてハジメを捜すんだけど、何処に行けばいいのか目星も付けられない。
人気の少ない通り、路地裏、治安の悪い古本屋近くの駐車場。
不良の溜まりそうな場所に行っては次の場所に移動。行っては移動。行っては移動。埒が明かない。
雨の中、俺はヨウと隣町境のバス停までチャリを飛ばしてみた。
ここら一帯も不良の集う場所として、有名なんだけど……雰囲気的にいなさそうだ。