青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「はぁ……はぁ……くそっ。いない。何処行っちまったんだ。ハジメ」
息が上がり始めた。雨のせいで体力がいつもの倍削られる。
「大丈夫か? ケイ。随分漕いでいるだろ」
「俺はどーでもいいよ。それよりハジメだ。あいつ……無事だといいけど」
顔を顰める俺に、ヨウも賛同して次に行こうと指示。
付け加えて、もう暫くしたら、チャリを漕ぐ役目を交替しようと言ってきた。
俺の体力への配慮なんだろうけど、ギリギリまで漕ぐからと心意気を見せる。
格好付けかもしれない。
だけど、俺はチームの足なんだ。その役割はきっちり果たしたい。
「ヨウは戦力の要だぞ。体力温存しかないでどーするよ……ん? 俺の携帯が震えている。メールか?」
「俺もだ。まさか、何か分かったのか」
ブレザーのポケットに捻り込んである携帯のバイブで、俺はメールが来たんだと認識。
ヨウにも来たってことは、ハジメ? もしかしてハジメなのか?
期待を籠めてメールを開く。俺達は瞠目、そして絶句した。
ディスプレイが雨粒で濡れるけど、ンなことはどーでもいい。
怒りに俺は手が震えた。
ディスプレイに映っているのは件名無題、本文なし、添付された画像のみのメール。
差出人はハジメの名前になっているけど、添付されている画像もハジメ本人。
嘘だろ、何だよこれ。
悪質な悪戯にしては悪質すぎる。
変な方向に腕が曲がっている、ハジメのズタボロ、ボロ雑巾姿が俺達メンバーの携帯に一斉送信されてやがるなんて。
一斉送信されてやがるなんて。
喪心しているであろうハジメの痛々しい寝顔に俺は奥歯を噛み締めた。
最低悪質メールだ、こんなのっ! 俺等を挑発しているにしか思えねぇ! ……くそっ、くそったれっ、ハジメがナニをしたってんだ!
弥生にまでこんなメール送りつけやがって、あいつが、どんな思いでメールを見ていると思っているんだ!
「ケイ……出せ。行くぞ」
「……おう」
怒りに震える俺、そしてヨウは必要最低限の言葉以外何も交わさず、携帯を仕舞ってチャリを出す。
ハジメ、間に合わなくてごめん。
だけど俺等は諦めずにお前を捜す。
迎えに行くから、もう少しだけ辛抱してくれよ……ハジメ、もう少しだけ、な? お前は俺等の仲間、誇れる仲間だから……必ず迎えに行くからな!
降り頻る雨、暮れた空の下で俺とヨウはハジメを捜し続ける。
そろそろチャリを漕いでいる足の悲鳴を上げ始めるけど、俺は総無視していた。
チャリのヘッドライトを点けて、ずっしりと重たくなる制服を感じつつ、懸命に足を動かす。
一分一秒を無駄にしたくなかったんだ。
ハジメを助け出したい一心で、俺は重くなる制服を振り払うように足を動かしていた。
相変わらず、情報の一切が手に入らないけど諦めたくない。
ハジメを襲ったそいつ等に負けを認める気がして。
五里霧中でチャリを走りまわしていると、ヨウの携帯から着信音。電話のようだ。
ヨウは相手を確認、
「ハジメから……だと?」
唸り声を上げながら電話に出る。
送り付けられた画像を見る限り、ハジメが電話に出れる筈がない。
ということはハジメの携帯を使って誰かが、それこそ主犯がヨウに電話を掛けて来たに違いない。
ヨウは自分の携帯をスピーカーフォン設定のままにしているのか、向こうの声が俺の耳にまで届く。
相手は女、ハジメを甘ったるく呼んでいた女の声だった。